「口コミ」ロングセラーの作り方 なぜ『おカネの教室』は売れ続けているのか

インタビュー

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「口コミ」ロングセラーの作り方 なぜ『おカネの教室』は売れ続けているのか

[文] インプレス「しごとのわ」編集部

高井浩章氏
高井浩章氏

2018年3月の発売から9刷を重ねるロングセラーとなっている『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密(しごとのわ)』(インプレス)。大手メディアへの露出がほとんどないまま、じわじわと部数を伸ばしている原動力はネット中心の「口コミ」の力だ。情報発信力の高い応援団の存在感や、読者のSNSへの「全レス」など口コミ拡散の舞台裏や狙いを著者の高井浩章氏に聞いた。(聞き手はインプレス「しごとのわ」編集部)

SNSに「全レス」

――読者のSNSの書き込みの全てに返事をしているそうですね。

 「ツイッターとインスタグラムの検索でヒットするものにはすべてコメントを返していて、読書アプリの『読書メーター』と『ブクログ』の感想にもコメントを付けています。ほとんどは『ご愛読ありがとうございます!』といった短いものですけど、ちょっとしたやり取りに発展することもあります。Amazonのレビューも50件目までは自分のFacebook上でコメントを返していました。あれこれ合わせると、全部で千件近い数になるのかな」
 「『全レス』は、深く考えず、単に面白いから始めたんです。デビュー作なので本が出たのが嬉しくて、感想まで書いてもらえるとさらに嬉しくて。コメント付けると、『まさかの著者レス来た!』なんて反応があるから、これも面白くて」

――すべてに返事するのは大変じゃないですか。

 「スマホでさっとできるので、手間ではないですよ。朝と晩、1日2回ぐらい検索して返信するだけ。幸い、強烈にディスられたり炎上したケースはないので、精神衛生上も負担はありません。Amazonの方が辛口の評価がやや多いんですけど、低評価のレビューも『そんな読まれ方もされるのか』と参考になります。即効性のある情報を求めるビジネス書の読者像も見えてくる。あ、1件だけ、『お金と時間の無駄でした』という1つ星レビューには、ちょっと凹みましたね(笑)」

――そうした読者との交流は本の売れ行きに好影響がありますか。

 「それは間違いなくプラスです。私自身もそうですが、本って、読んで面白いなと思うと、誰かに話したくなるものです。ネットに感想を書くのも、そういう心理がある。そこに『著者からレス来た!』ってサプライズがあると、友達や自分のフォロワーに拡散する『ネタ』になるでしょ、プラスアルファの材料として。実際、ありがたいことに、やり取りをしているうちに『周囲に勧めまくります!』と口コミ応援団になってくださってる方が何人もいらっしゃいます」
 「今の『全レス』は面白くてやってる面が大きいですけど、口コミの威力はよくわかっていました。『おカネの教室』は、もとはKindleで個人出版したものだったからです。完全な個人ベースですから、マーケティングはほぼ口コミオンリーでした。それでも1年弱で1万部強行ったので、商業出版でも同じような流れを作れればな、とは思っていました。今のところ、予想以上にうまくいっていますね」

インフルエンサーの存在感

――他にネットの「口コミ力」を感じる例はありますか。

 「インフルエンサーの影響力の大きさには驚かされますね。昨年3月の出版直後に『おカネの教室』がスタートダッシュできたのは、作家でジャーナリストの佐々木俊尚さんがSNSで紹介してくださったのが大きかったんです。ツイッターのフォロワーが80万人くらいいらっしゃるので、一気に本の知名度が上がりました。佐々木さんには個人出版のKindle版もプッシュしていただいたことがあって、足を向けて寝られません(笑)」
 「その後も、今、ブレイク中の文学YouTuberのベルさんや、『平成生まれのお金の専門家』として活躍している横川楓さんが、動画や投稿、ネット媒体の記事で『おカネの教室』を繰り返しプッシュして口コミを広げてくださってます。メーンのターゲットになる若者世代に届けてくれる応援団みたいな存在で、心強いです。正直、推薦してもらうまで、お二人のことは存じ上げなかったんですけど、すごい影響力で、『こんな形で認知度が上がるとは』と新鮮な驚きがありました。書評のYouTubeでフォロワーが5万超えるって、ちょっとオジサンの想像を超えてます……(笑)。2月には横川さんが初のご著書『ミレニアル世代のお金のリアル』を出版されるので、若者世代に向けた情報発信なんかでコラボできないかな、と期待しています」

ベルさんのYouTubeチャンネルで対談した高井さん
ベルさんのYouTubeチャンネルで対談した高井さん
https://youtu.be/4n6J72tIY7o

ネット拡散の「自家発電」

――ネット上で自著のPRも積極的になさってますね。

 「『プレジデントオンライン』や『マネー現代』、『BLOGOS』といったネット媒体に、金融リテラシーの向上といったテーマと絡めて『おカネの教室』を紹介する記事を何度か掲載していただいています。全部自分で書いているので『自家発電』と呼んでます(笑)。ネットの記事はバズると売れ行きにすぐ効くので、手ごたえが分かりやすいですね。昨年は一度、自分で書いた紹介記事をきっかけに『おカネの教室』がAmazonの総合トップになって、ビックリしました」
 「無名の新人のデビュー作なうえ、経済青春小説というちょっと変な本なのもあって、残念ながら、いくつかの週刊誌などを除くと、新聞やメジャーなメディアで取り上げてもらえる機会がほとんどないんです。それなら自家発電するしかない(笑)」

ネットとリアルを地続きに

――新聞や電車の広告などの従来型のマーケティングとの相乗効果をどう見ていますか。

 「『おカネの教室』は、ドカンと売れるタイプの本じゃないですが、普遍的なテーマを取り上げた『腐らない本』なので、金融教育や経済入門の定番としてロングセラーになってほしいな、と思っています。そういう狙いからすると、私の中では、ネットはサバイバルのツールで、マスメディアが読者の裾野を広げるツール、という役割分担をイメージしています」
 「サバイバルというのは、読者はもちろんのこと、読者との接点である書店さんの認知度を上げて、有体にいうと『棚』を確保するというか、お店に長く本を置いてもらえるように踏ん張る、という意味です。特にビジネス書はどんどん新刊が出て棚の入れ替わりが激しいので、生き残るってだけでも、けっこうなチャレンジです」
 「サバイバルしたうえで、マスに働きかけるマーケティングや露出を通じて徐々に読者の裾野が広げられれば、と期待しています。昨年6月には、ほぼ唯一の例外的なマスメディアへの露出として、TOKYO FMの『クロノス・フライデー』にゲストで呼んでいただいたんです。このときは出演直後に販売が急増して、マス媒体の影響力を改めて認識しました。年末年始には京王線で車内広告を展開して、これもネット、リアルとも読者層がぐっと広がった感触があります」
 「ヒットが約束されている書き手や話題作ならともかく、『普通の本』では、頻繁に派手な広告を打ったり、マスメディアに取り上げてもらったりというのを期待するのは、現実的ではない。でも、ネットなら、工夫次第でコストをかけないで認知度を底上げできる。ネットの口コミとマスをうまくかみ合わせていきたいですね」

京王線で展開された『おカネの教室』の電車広告
京王線で展開された『おカネの教室』の電車広告

「マンガ化・映像化を」の声に応えたい

――ネットだけじゃなく、ご自身で書店回りもされてますね。

 「ここまでネット先行で来ている本ですけど、やはり読者との一番の接点は書店なので、ネットの口コミとリアルの売り場を『地続き』にしたいんです。時間があるときには、都内の大型店を自分で回って、平積みや面展開になっていたらその場で書店員さんを捕まえて本の内容やネットでの評判、評価を伝えて、手書きポップを『押し売り営業』しています。出身の名古屋に帰省した際にも何店か飛び込み営業をやりました(笑)。地方まではなかなか足を運べないんですけど、書店員さんが『この本、面白い』とツイッターでつぶやいてくださったのを見つけて、一方的にポップをお送りした書店さんがいくつかあります。全国の書店員さん、つぶやき、お待ちしています!」
 「今のような形で評価や存在感に厚みが出てくれば、定番のロングセラーとして認知してもらえるんじゃないかな、と期待しています。2018年はこれがうまく行ったので、今年もリアルとネットを絡める形でアレコレ仕掛けて行きたい。たとえばネットでの反応ですごく多いのはマンガ化や映像化の要望なんですが、これも何とか形にしたいな、と。まだ構想段階というか、野望、に近いですけどね(笑)」

ツイッターで繋がった山梨の星野書店へ送った手書きPOP
ツイッターで繋がった山梨の星野書店へ送った手書きPOP

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高井浩章(たかい・ひろあき)
1972年、愛知県出身。経済記者・デスクとして20年超の経験をもつ。専門分野は、株式、債券などのマーケットや資産運用ビジネス、国際ニュースなど。三姉妹の父親で、初めての単著となる本書は、娘に向けて7年にわたり家庭内で連載していた小説を改稿したもの。趣味はレゴブロックとスリークッション(ビリヤードの一種)。

インプレス
2019年2月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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