「このミス」大賞受賞作 襲われた連続殺人者、脳にチップが…

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怪物の木こり

『怪物の木こり』

著者
倉井眉介 [著]
出版社
宝島社
ISBN
9784800290625
発売日
2019/01/12
価格
1,518円(税込)

意表を突く着想と構成の妙が光る「このミス」大賞受賞作

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 数あるミステリー系新人賞の中でも、ひと際娯楽性の高いものが選ばれるのが『このミステリーがすごい!』大賞。本書はその第一七回大賞受賞作である。

 今回も強力な作品が選出されたものの、すんなりと受賞にこぎつけたわけではなかった。文章が粗い、題材の扱いがあまりにご都合主義といった反対意見もあったのだが、それを抑えても受賞させる価値はあったと思う。推薦した選考者本人がいうのだから、間違いない!

 さてその題材だが、出だしのシーンからもわかるように、まずはサイコパス。主人公の二宮彰は弁護士ながら実は冷酷な連続殺人者で、都内で連続死体損壊殺人事件が起きる中、自分を尾け(つ)てきた男を殺し、平然と死体の処理にかかるような人間だった。

 だが一週間後、彼自身、自宅マンションの駐車場で怪物の仮面をかぶった男に襲われ、頭に重傷を負う。二宮は復讐を誓うものの、検査で自分の脳内に神経細胞間の電気信号を制御して感情や記憶を操作する禁断の医療機器“脳チップ”が埋め込まれていたことを知らされる。やがて彼の立ち居振る舞いに変化が……。

 というわけで、題材のその二は脳チップ。単なるサイコサスペンスではなく、近未来の医療SFでもあるのだが、安易にSFなどというと、また大森望に叱られかねない。だが本書の面白さは題材それ自体もさることながら、サイコパスの二宮が襲われる出だしから、意表を突く展開で畳みかけてくる構成の妙にあり。

 連続死体損壊殺人事件を追う警視庁捜査一課の戸城嵐子(としろらんこ)と所轄の名刑事・乾登人(いぬいのぼる)も、犯行が途絶えたのをきっかけに二宮の存在を知り、さらには過去の忌まわしい事件との関係も浮かび上がってくる。リズミカルな語りで読者の気をそらさぬテクニックは、著者が生来のストーリーテラーである証し。推敲技術も向上すれば鬼に金棒で、今後の活躍も大いに期待出来る。

新潮社 週刊新潮
2019年2月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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