黒人女性たちから“聞き書き”1982年刊行の名著が復刊

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性
  • 戦争は女の顔をしていない
  • サンダカン八番娼館

書籍情報:版元ドットコム

黒人女性たちから“聞き書き”1982年刊行の名著が復刊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 一九八二年刊行の名著が復刊された。藤本和子『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』だ。著者はリチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』や『西瓜糖の日々』、ノーベル文学賞受賞者である黒人女性作家、トニ・モリスンの『タール・ベイビー』などの翻訳で知られている。アメリカに暮らす彼女が、黒人女性たちに会いに行き、それぞれの体験を語ってもらったことを聞き書きの形でまとめたのが本書だ。

 小さな会社を営むシングルマザー、八百六十九人の赤子を取り上げた元助産婦、葬儀会社の経営者、作家……。もちろん公民権運動や差別や貧困についても言及されるが、著者はそこから〈苦境にあって人間らしさを手放さずに生きのびることの意味〉を知ろうとする。その姿勢が、率直で豊穣な言葉を引き出していく。タイトルは本書にも登場する作家、トニ・ケイド・バンバーラの長篇『塩食う者たち』から。その意味は〈塩にたとえられるべき辛苦を経験する者たちのことであると同時に、塩を食べて傷を癒やす者たちでもある〉。

 女性が女性に聞き書きをした名著といえばノーベル文学賞受賞作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著作もそうだろう。初の著書『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳、岩波現代文庫)は、五百人以上のソ連従軍女性たちから聞き取りを行った一冊である。ソ連では第二次世界大戦時、医師や看護婦としてだけでなく、兵士としても十五~三十歳の女性たちが従軍した。無邪気さの残る少女たちが、嫌々ではなく「それが当然」として戦地に向う。戦後は白い目を向けられ、口を閉ざさざるを得なかった女性たちが、著者に対して心を開く。

 国内にも聞き書きの名作はある。山崎朋子の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作『サンダカン八番娼館』(文春文庫)は、幼いうちに海外に売られ、娼婦として働かされた過去を持つ老女、おサキさんとともに生活して聞き取った記録。

 どれも、語り手と聞き手の間に育まれるある種の信頼も、心に刺さる。

新潮社 週刊新潮
2019年2月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加