江戸の古本屋 橋口侯之介(こうのすけ)著

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江戸の古本屋

『江戸の古本屋』

著者
橋口侯之介 [著]
出版社
平凡社
ISBN
9784582468229
発売日
2018/12/17
価格
4,104円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

江戸の古本屋 橋口侯之介(こうのすけ)著

[レビュアー] 岡崎武志

◆海賊版に悩み、強めたつながり

 落語「品川心中」に、貸本屋の金蔵という男が出てくる。風呂敷に本を詰め込んで背負い、遊郭の女たちの間を回り、本を貸す。あれが江戸の本屋の一形態である。しかし本書によれば、江戸時代の本屋は、基本的に「古本屋」であり、古本のほか新本の売買、さらに出版、問屋の機能も兼ね備えていたという。川上から川下まで、「本」が流通するシステム全てをまかなっていた。つまり、本来の意味での「本屋」であった。非常に合理的な完成されたシステムで、よく出来ていた。

 著者は出版社勤務を経て、東京・神田神保町の老舗古書店「誠心堂書店」の店主となった。和本に精通し、こういう本を書くにはうってつけの人である。事実、資料の逍遥(しょうよう)をはじめ、崩し字の版本も読みこなし、江戸の書肆(しょし)と流通を、周到細密に叙述する。

 特に寛永期から続く京都の本屋「風月」の主(あるじ)・風月庄左衛門が残した業務日録『日暦』を読み解く第一章が凄(すご)い。業者市場の役割、仕入れと販売、同業者の横のつながり(講・組・本屋仲間)、出版に至るまで、総ざらえされている。「重板類板」(海賊版や偽本)対策に頭を悩まし、これを取り締まることで仲間組織が強化される話など、今に通じる話で興味深い。

 さらに「品川心中」の金蔵のごとく、店を持たずに行商や貸本をしていた売子(うりこ)や世利子(せりこ)などの存在も記され、人情本の為永春水(ためながしゅんすい)が若い頃、金蔵みたいな売子をしていたとは本書で初めて知った。

 この江戸の本屋のシステムは明治二十年頃まで続いた。和紙が洋紙、木版は活版、職人は工場へと変わり、今日に続く大量出版の時代になって行く。「この明治期の変化は、二十一世紀の書籍が電子化されていく」現在の「予兆」だと著者は言う。また、「出版を担うものは『売れ行き』という数字でしか読者を知らない」と現状を批判する。

 町から本屋が消えて行き、出版業界も右下がりに疲弊する中、いま一度立ち止まって、江戸の本屋の良好なシステムに学ぶことが求められているのではないか。

(平凡社・4104円)

1947年生まれ。誠心堂書店店主。著書『和本入門』『和本への招待』など。

◆もう1冊 

鈴木俊幸著『蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)』(平凡社ライブラリー)。江戸の出版人の実像に迫る。

中日新聞 東京新聞
2019年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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