<東北の本棚>被災者支援見つめ直す

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復興と尊厳

『復興と尊厳』

著者
内尾 太一 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784130561174
発売日
2018/11/27
価格
4,180円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>被災者支援見つめ直す

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災は多くの命を奪い、暮らしを根こそぎ破壊した。被害が甚大だった分、被災地には空前の規模で人、カネ、モノが集中した。まちをゼロからつくり直す復興の喧騒(けんそう)の中、守られるべき被災者の尊厳とは何だったのか。震災直後から5年間、宮城県南三陸町で支援活動を続けてきた若手人類学者の考察である。
 当時、惨状に心を痛めた多くの人が莫大(ばくだい)な義援金と物資を被災地へ贈った。そうした善意が被災生活の苦しみを和らげ、生活再建を助けたのは間違いない。しかし、遠隔からの匿名の贈与は、時がたつにつれ、返礼するすべのない被災者にとって精神的な負債にもなっていく。
 「被災者と呼ばれると通常の人よりランクが下みたい」という南三陸の人の複雑な思い。「対等であるべき市民同士の関係を、長びく支援が変質させているのでは」という支援する側の葛藤。聞き取りと実体験に基づく考察が続く。
 支援の存在意義を否定しないためにも、著者は被災者と支援者が支え合う形を模索する。イベントでの協働という例は決定的な解ではないが、そこに至る試行錯誤はヒントになろう。
 まちづくりを巡っては、巨大防潮堤を取り上げ、自己決定権を重要なキーワードに挙げる。
 復興は本来、そこに生きる人が主役であるはずの取り組みだ。とりわけ被災地の人々は地域固有の文化や景観を大切にしてきた。
 しかし、行政が強い意志で構築を進めたことで、防潮堤には、あらがいがたい権力を象徴する画一的な巨大建造物という負のイメージが色濃くついた。安全面での貢献はあるにしても、住民の主体性と地域の個性、すなわち尊厳を損なうとの主張には説得力がある。
 震災からもう8年。被災者や支援という言葉を漫然と使える時期は過ぎたのかもしれない。
 著者は1984年生まれ。麗沢大(千葉県柏市)助教。
 東京大出版会03(6407)1069=4104円。

河北新報
2019年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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