元Google人材育成統括部長からのメッセージ「もうがんばらないでください」

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ゼロから“イチ”を生み出せる! がんばらない働き方

『ゼロから“イチ”を生み出せる! がんばらない働き方』

著者
ピョートル・フェリクス・グジバチ [著]
出版社
青春出版社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784413231114
発売日
2019/01/10
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

元Google人材育成統括部長からのメッセージ「もうがんばらないでください」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

過去にも著作をご紹介したことがありますが、『ゼロから“イチ”を生み出せる! がんばらない働き方』(ピョートル・フェリクス・グジバチ著、青春出版社)の著者は、2000年に来日し、ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経てGoogle(グーグル)人材育成統括部長を務めた実績の持ち主。2015年に独立し、現在は2社を経営されています。

しかし、日本の企業の人と仕事をしていて、毎日のように「がんばる」という言葉を聞くことに違和感があるのだそうです。

あまりポジティブな印象はそこになく、自由で主体的なやる気よりも、「忍耐や努力をします」という宣言のように聞こえてしまうことが多いというのです。

そして、こうも主張しています。がんばりさえすれば評価される時代は終わったのだから、「もうがんばらないでください」と。

これからの時代をリードするのは、もっと主体的に働き、学び続け、成長し続ける人です。ゼロから新しい価値を生み出し、自分にしかできない仕事をつくり出し、「社会にインパクトを与えるような仕事をする」という大きなミッションと情熱を持つ人です。(「はじめに」より)

なお、ここでいう「インパクト」が指しているのは、同じ時間で生み出す価値が大きいこと。そして「インパクトが大きい仕事をする」際に大切なのは、あれもこれもこなそうとするのではなく、「ムダを捨てること」だといいます。作業をがんばることではなく、むしろ「がんばらない」ことが重要だという考え方です。

重要なのは、がんばって手を動かす前に、落ち着いて頭を整理すること。頭に余裕がなければ、新しいアイデアや深い思考はできるはずもありません。

そこで、求めるインパクトを得るために、不要なものを「捨てる」決断が必要になるということです。例を挙げれば、ときにはパソコンから離れてボーッと空を眺めるほうがいいこともあるわけです。あるいは、オフィスから抜け出してみるとか。

まわりからはサボっているように見えるかもしれません。でも、作業で頭が一杯になっているうちは、新しいアイデアも湧いてこないのです。 インパクトが大きい仕事を手にするには「作業」から離れる時間が欠かせません。

だから僕は「がんばります」という言葉を聞くたび、 「もうがんばらないでください」 「ちょっと落ち着いて、頭を整理してください」 とお願いしているのです。(「はじめに」より)

そんな本書の2章「to doをこなそうとがんばっていませんか? ーーまず「しないこと」をリストアップしようーー」のなかから、いくつかの考え方をピックアップしてみましょう。

「インパクトが大きく学びも多い仕事」に注力する

一般的に「to doリスト」は、「目の前にある、いまやるべきこと」を列挙するために作成するものと認識されています。to doリストをつくることで、その日のタスクをやり忘れることなく効率よく消化でき、目標達成にも近づいていくわけです。

ところが著者は、「to doリストには、危険な側面がある」と主張しているのです。それは、「インパクトが小さく、学びも少ない」作業ばかりを書き連ね、それを「こなそうとがんばってしまう」という危険。

著者が本書で伝えようとしているのも、そうした仕事を「捨てる」ことなのだそうです。

なぜならそれこそが、生産性を5倍、10倍に高め、インパクトの大きな仕事を実現するために欠かせないことだから。事実、著者もto doリストをつくることはまずないのだと断言しています。

大切なのは、個人としてもチームとしても、生産性を高め、インパクト(同じ時間で生み出す価値や、社内での評価)が大きくなるよう意識して仕事をすること。

そのため「インパクトが小さく、学びも少ない」仕事は、真っ先にto doリストならぬ「not to doリスト」入りにして、やらないと決めているというわけです。

ちなみに自分の仕事を、「インパクトの大小」と「学びの大きさ」でマトリクスにすると、次のように分類できるのだそうです。

①インパクトが大きく、学びも多い仕事

②インパクトは大きいが、学びは少ない仕事

③インパクトは小さいが、学びは多い仕事

④インパクトが小さく、学びも少ない仕事

(53ページより)

当然ながら最優先したいのは①。端的にいえば、「自分以外にはできない仕事」だということです。②は、その仕事を学びたいと思っているほかの人たちに回していくことに。そして③は、長期的な投資として行うイメージ。

すぐにお金にはならないとしても、仕事の6~7割は将来の土台づくりのためにあてるべきだと著者は考えているのだそうです。

なぜならそれが、①や②の仕事に成長してくれるかもしれないから。そして③には、語学を学ぶことも含まれているのだといいます。著者自身、いまでも数カ国語を勉強しているというのですから驚き。

もっとも優先度が低いのは④。いいかえれば、誰でもできる仕事だということ。具体的にはメールチェックやスケジューリング、資料づくりなどの「作業」がこれにあたるわけです。

そして多くの場合、to doリストに並ぶ「目の前にある、いまやるべきこと」「その日のタスク」は④になります。

インパクトが大きい仕事がしたいと願うなら、④は極力、「捨てる」という判断をするべきところです。④を抱え続ける限り、従来の仕事の仕方から抜け出せず、仕事量だけが増えていくことになるでしょう。

これだと硬直した「がんばらなきゃ」という思考になりがちなのは、みなさんもよくご存知だと思います。(56~57ページより)

仮に「誰かがやらないといけない仕事」であっても、外部にアウトソーシングしたり、ITで自動化したり、チームの他のメンバーに任せたりと、できるだけ自分以外の力を借りることで「捨てる」ことが可能に。

そして自分の時間が10あるとしたら、これまでの仕事を5で終え、残りの5を①や②の仕事に振り分ければいいわけです。(52ページより)

より大事なのは「not to doリスト」

著者は必ずしも、to doリストをつくり、その日にやるべきことを整理することを否定してはいません、しかし同時に、「そのタスクは本当に必要なのか」と疑ってみるべきだと主張するのです。

生産性を高めたいなら、to doリストを増やすよりも、思い切って減らすほうが先決。なぜならそうすれば、①や②の仕事にあてる時間を捻出できるからです。

To doリストを減らすということは、「やらないこと」を増やすこと。インパクトのある仕事をしたいのであれば、to doリストより「not to doリスト」のほうが大切だというわけです。

「なにをやらないか」を決めることで頭を整理し、よりインパクトの大きな仕事に打ち込むことができるということ。(58ページより)

楽をするほどチャンスは大きくなる

自分の仕事にムダがないか、やらなくてもいい仕事を抱え込んでいないか、疑ってかかる習慣を身につけましょう。そうして、非効率をなくし、大事な仕事にフォーカスをすることが大事です。(92ページより)

聞いてもいないのに「きのうは3時間しか眠れていなくて」というようなことを誇らしげに語り、自分の忙しさやがんばっていることをアピールしたがる人がいるもの。

しかしそれは、仕事の意味やインパクトの大きさを考えずに不要な仕事にまで手をつけて、to doリストを一杯にしているだけかもしれないと著者は言います。

そればかりではありません。忙しさアピールの裏側には、「自分は忙しいんだ、がんばってるんだ」とアピールすることで、評価してもらおうという魂胆があるのかもしれないともいうのです。

「そこまで必要とされるほど、自分は優秀なのだ」と訴えたがっているということ。

でも「捨てる」ことで生産性を高めようというのであれば、いつも忙しそうにしている人よりも、眠そうに見えるのにすごい成果を上げている人の方が魅力的に映るはず。

現場レベルのメンバーでいるうちは、忙しさアピールも通用するかもしれません。しかしポジションが上がっていくにつれ、求められるようになるのは、忙しくすることではなく、結果そのもの。

なのに忙しさアピールを続けているとしたら、非効率的な、生産性の低い働き方をしていることがバレてしまうだけだということです。

仕事の仕方を見直すことができず、目の前の忙しさに甘んじているうちは、結果を出したくても出せません。頭を整理し、新しいアイデアを練るための余裕が持てないからです。

そこで不要な仕事を捨て、インパクトが大きい仕事に時間を振り分けることで、余裕をつくり楽に仕事をすることと、生産性を高めることを両立できます。(95ページより)

日本企業には「余裕が欲しいなんて甘えだ」「がんばれば余裕もつくれる」といった精神論が強いと著者。

しかし、そうした現実に対して「がんばる」のはソリューションではないと反論しています。「がんばる前に、とりあえず落ち着いて、頭を整理してから動いてください」と。(92ページより)

「がんばります」と口に出す習慣があったとしても、あるいはなかったとしても無意識のうちに、僕たち日本人は「がんばる」ことを重視しすぎているのかもしれません。

そういう意味でも本書は、多くの日本人が読むべき1冊であると言えるでしょう。

メディアジーン lifehacker
2019年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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