小腸は健康の根源? 消化器の専門家が送る、日本初の小腸本

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小腸は健康の根源? 消化器の専門家が送る、日本初の小腸本

[レビュアー] 澤田真一(ノンフィクション作家)

 医師も人間であり、神ではない。人間である以上、常日頃学ばなければいずれ退化してしまう。

 それを教えてくれるのが、江田クリニック院長で医学博士の江田証氏が筆を執った『小腸を強くすれば病気にならない 今、日本人に忍び寄る「SIBO」(小腸内細菌増殖症)から身を守れ!(インプレス刊)』という本である。

 小腸は、あまり注目されていない臓器だ。「腸内活性化」というフレーズで連想するのは、どうしても大腸の方である。しかし江田氏は本書の中で、「小腸を強くすれば病気にならない」とはっきり書いている。

 それはどういうことか?

現代人を悩ます「SIBO」

 小腸は、診断の難しい臓器だった。

 旧来型の内視鏡では小腸まで届かず、それ故にこの部位は医師にとっての「ブラックボックス」だった。だが、それはもはや昔の話である。

<しかし、現在は、ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡という手段が開発され、これまでなかなか診断することのできなかった小腸の病気も、正しく診断できるようになってきました。(20ページより引用)>

 技術革新は研究の前進を生み出す。小腸に絞った医学的な研究が、これでようやく進展するようになった。

 その過程で、近年では「SIBO(シーボ)」という病気がクローズアップされている。別名を「小腸内細菌増殖症」と言い、小腸の中で腸内細菌が蓄積してしまうものだ。

 小腸は、体内に取り込まれた食物の栄養や水分を吸い上げてくれる臓器である。しかし、細菌が発酵することにより発生するガスにはあまり耐えられない。このようにダメージを受けた小腸は上手く栄養を吸収できなくなり、結果的に様々な病気を誘発する。

 それは身体的な症状だけではなく、精神的な症状をも起こしてしまうそうだ。

さまざまなお腹のトラブルは、「小腸」で生じていた! 消化器の器官の全体図
さまざまなお腹のトラブルは、「小腸」で生じていた! 消化器の器官の全体図

善玉菌が症状を悪化させる

「ならば、善玉菌の入った食品を摂取すればいいのでは?」

 そういう声が聞こえてきそうだ。しかし、善玉菌はSIBOを改善させるどころか、むしろ悪化させてしまうという。

<答えはシンプルです。小腸の中で細菌が増えすぎてしまっている人がいるのです。つまりはSIBOの人です。(49ページより引用)>

 SIBOとは、細菌の爆発的増加が原因で起こる病気である。そこへさらに細菌を加えたら、どうなるだろうか? 少なくとも、症状が改善されることはない。

 だが一方で、小腸の医学的研究は最近になって急加速した分野。この本に書かれていることを、全ての専門医が共通認識として把握しているわけではないということが分かる。

<過敏性腸症候群が疾患として取り上げられるようになったのは、1950年代のことでした。しかし、SIBOが疾患として医学界で問題として強く認識されるようになったのは、この数年のことです。したがって、医師がSIBOという病気について認識がなくても驚くにあたりません。(18ページより引用)>

長寿命化の時代だからこそ

 人類は、既に数々の病気を乗り越えている。天然痘は撲滅され、ペストやハンセン病もまったく恐れるに値しない病になった。

 同時に、医学の進歩は人類に対して新たな課題も与えている。この記事で取り上げた小腸の問題は、まさにそれだ。

 織田信長が生きていた頃は「人生五十年、下天のうちを比ぶれば」と歌われてきたが、現代では「人生八十年」でもまだ短いくらいだ。万民が100歳まで生きる時代がもうすぐやって来るだろう。

 その間、我々は自分の小腸と上手く付き合っていかなければならない。小腸の健康は全身の健康をもたらし、さらにその人の幸せをもたらすと考えるべきか。

<人間の体はすべてネットワークでつながっており、小腸が不調だとその影響は全身の臓器に深刻な病気を引き起こします。小腸が元気になると、もつれた糸がほどけるように全身が健康になっていきます。(6ページより引用)>

 とりあえずは、本書の隅から隅まで読んでいただきたい。小腸という臓器の偉大さがよく分かる1冊である。

インプレス
2019年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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