グーグルアースにはない「情」が込められたエクストリーム版鳥瞰図

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新装版 真鍋博の鳥の眼

『新装版 真鍋博の鳥の眼』

著者
真鍋博 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784620325668
発売日
2019/01/25
価格
4,070円(税込)

書籍情報:openBD

往年の人気イラストレーターが描いた驚きの“50年前の日本”鳥観図

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 50年前に出版された地図をいま再刊する意味があるのか。と問われれば、これは地図ではない、地図という名の、描き手が鳥の眼に憑依した執念の観察記録だから、と答えるほかない。

 真鍋博は往年のSFファンには懐かしい名前だろう。星新一と組んで無数の表紙絵や挿画を世に送り出してきたし、ユートピア感あふれる「明るい未来」を描いて一世を風靡したイラストレーターでもあった。そしてこの本の元版が出た1968年は、陽性の未来像が満開となった最後の万博である大阪万博の2年前なのだった。

 もともと1967年から翌年にかけて週刊誌『サンデー毎日』に連載された、54箇所の「変わりゆく日本」を鳥瞰図で描いたこの労作。毎日新聞社の飛行機をフルに使って航空写真を撮りまくり、地上では編集部員と各地方の支局員が足を使ってひとつひとつの建物を調べ上げたという、とんでもない作業と費用をかけて生み出されたのは、上空から眺めおろした風景に、できるかぎりの建物名を書き込むという異様な「日本の図面」だった。かつてどこの観光地にもあった、パタパタ折りの観光鳥瞰絵図。あれのエクストリーム版とも言うべき。

 いまならグーグルアースがあるだろう、と言われればそれまで。でもスマホの画面やカーナビに映っている立体地図にあるのは座標データで、真鍋博の鳥瞰図に込められているのは「情」だ。変わりゆく日本の暮らしに注がれた視線は、変化への期待と危機感も、過去への惜別も、すべての感情を内包し揺れ動きながら、細部へ細部へと潜り込んでいく。

 あまりに細密だったために、旧版にはルーペが付属していたという。今回の新版はひとまわり以上大きいサイズだが、それでもルーペが欲しくなる。できることなら拡大可能なフォーマットの電子書籍版を出していただきたい。

新潮社 週刊新潮
2019年2月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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