「ジャパネットたかた」を成功させた「弱者の戦法」とは?

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ジャパネットたかた すごい戦略

『ジャパネットたかた すごい戦略』

著者
名和田竜 [著]
出版社
あさ出版
ISBN
9784866671109
発売日
2018/12/09
価格
1,540円(税込)

「ジャパネットたかた」を成功させた「弱者の戦法」とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ジャパネットたかた すごい戦略』(名和田 竜著、あさ出版)の著者は、本家ランチェスター協会でランチェスター戦略を学び、そののち独立したというNPOランチェスター協会常務理事兼副研修部長・認定インストラクター。

そうした実績をもとに、本書では「ジャパネットたかた」の成功要因を「ランチェスター戦略」という視点から探っているのだそうです。

ちなみに著者によれば、戦闘に科学的アプローチを取り入れた勝ち負けのルールである「ランチェスター法則」を理論化し、ビジネスの領域へと持ち込み、実務体系化したものが「ランチェスター戦略」なのだとか。

「ランチェスター戦略」の考え方をザックリ言ってしまうと、弱者であれば、まずは小さな市場でかまわないので、自分たちの強みが活かせる(勝てそうな)市場に重点化し、そこにおいて自社の「質」的要素と「量」的要素を集中させ、圧倒的な1位になる!

(ナンバーワンになるまでやり切る!)ということです。 そして、小さくともナンバーワンをいくつもつくり上げ、やがて大きなナンバーワンへとなっていくことを目指します。

これが、「ランチェスター戦略」の基本的な考え方です。 また、その判断基準は「シェア」(市場占有率)であるということも付け加えておきましょう。(44~45ページより)

「ランチェスター戦略」では、弱者には弱者の、強者には強者の戦い方があり、その判断基準は市場シェアにあると定義づけているのだそうです。

なお、「弱者」が取るべき「差別化戦略」を実践するための5大戦法は次のとおり。

①「局地戦」:市場(事業領域や客層)や地域(エリア)を限定して戦うこと

②「一騎打ち戦」:極力競合の少ない状況で戦うこと

③「接近戦」:顧客・エンドユーザーとの直接取引や、エンドユーザーに近い流通先(最終販売先)などへの直接取引

④「一点集中戦」:あれこれ手を広げず、まずは1つのこと(市場・領域・商品・顧客・地域など)に集中するということ

⑤「陽動戦」:いってみれば「ゲリラ戦」

そして「強者」の5大戦法は、以下のようになるのだといいます。

①「広域戦」:大きな市場・領域でビジネスを展開すること

②「確率戦」:ブランド力や認知度、安心感・信頼感・商品ライン・アイテム数などの総合力を活かすこと

③「遠隔戦」:卸や代理店、ディーラーなどをフル活用し、間接販売によって攻撃量(販売網)を増やしていく戦い方

④「総合戦」(物量戦):圧倒的な数と量で市場を制する戦い方

⑤「誘導戦」:自分の土俵に弱者を誘い込み、潰してしまう戦い方

興味深いのは、著者がこの弱者の視点でジャパネットの施策を整理していること。

第5章「ランチェスター視点で斬る! ジャパネットたかたの『戦闘力』」中の、「『ランチェスター戦略』(5大戦法)の視点で見ると」に目を向けてみましょう。

1. 局地戦

著者によればジャパネットは、局地的な戦い方をしているとは言いがたいビジネスを行っているのだそうです。つまりは局地戦ではなく「広域戦」だということで、強者の戦略をとっていると解釈できるわけです。そこが、通常の弱者のやり方との大きな違い。

といっても当初は、弱者の立場だったのだといいます。しかし前社長の高田明氏がラジオショッピングというメディアと出会ったことにより、それまでの弱者にはなかった「メディア・コンテンツ」という武器を手にするわけです。

だからこそ、弱者であれどやり方次第で強者と渡り合えるということ。大きな市場でも勝負できる状況をつくっていったのです。

しかし、メディア自体が武器という意味ではないのだそうです。また、インターネットであれば全国・全世界で勝負できるため、弱者はネットを使えば局地戦で戦う必要はないという結論に結びつけたいわけでもないといいます。

基本的には、ネットを主体とするビジネスであっても私は、ターゲットを絞り込んだ「局地戦」で挑むことを推奨しています。

ただ、明氏のやられてきた戦略は、“優れたコンテンツ”を武器として、メディアを“販路”としていち早くとらえ展開していきましたので、武器はあくまでもコンテンツなのです。

メディアやネットが確かな武器となりうるには、その中身であるコンテンツが必要なのです。(中略)この“コンテンツ”を武器として認識したからこそ、メディア戦略が成功したのです。(169~170ページより)

そのためジャパネットを5大戦法に当てはめると、メディアを活用した「広域戦」になるということ。(168ページより)

2. 一騎打ち戦

極力競合の少ない状況で戦うことを意味する「一騎打ち戦」については、ジャパネットの参入当時は空白地でした。

2社間競合どころか、以前はブルーオーシャン(競争のない未開拓)市場といってもよいくらいだったわけです。(170ページより)

3. 接近戦

接近戦とは顧客との距離を縮め、その関係性を強化していくということですが、“間”を介さない通販ビジネスは、まさに接近戦そのもの。

しかもジャパネットの場合はアフターフォローも自社で直接行うので、徹底した接近戦を実践しているということになります。(171ページより)

4. 一点集中戦

ジャパネットの売り方の特徴は、常に重点商品を絞り込んだかたちで展開していること。その時期、そのときに売りたいものが明確なので、ブレることなく伝えることができるわけです。

チャレンジデーに見られる売り方などには、それが顕著に表れているといいます。(171ページより)

5. 陽動戦

陽動戦は、弱者だからできる「かく乱戦」。また、強者に気づかれないように水面下で営業やプロモーション活動を仕掛けるのもこれにあたるといいます。

ジャパネットは、この戦法を非常に得意としている企業であり、原点である「カメラのたかた」時代から明氏がやり続けてきたことでもあるのだそうです。

社員旅行同行からの翌日現像にはじまり、取次店ネットワーク化、現像当日サービス、訪問販売、ラジオの全国ネットワークの構築、金利・手数料ジャパネット負担、生放送にアフターサポート、チャレンジデーもそれにあたりますが、そもそも自前経営自体も陽動戦に当てはまるといいます。

このように、「局地戦」ではなく「広域戦」で展開したということを除けば、ジャパネットは弱者の取るべきセオリーに則ったかたちの戦略を展開してきたわけです。(172ページより)

ジャパネットたかたの独自性を媒介してランチェスター理論を学ぼうというコンセプト自体が、とてもユニーク。そして「弱者の戦法」は、さまざまなビジネスに応用することができそうです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2019年2月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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