ナーブルスィー神秘哲学集成 アブドゥルガニー・ナーブルスィー著…作品社

レビュー

5
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ナーブルスィー神秘哲学集成

『ナーブルスィー神秘哲学集成』

著者
アブドゥルガニー・ナーブルスィー [著]/山本直輝 [訳]/中田考 [監修]
出版社
作品社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784861827303
発売日
2018/12/25
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ナーブルスィー神秘哲学集成 アブドゥルガニー・ナーブルスィー著…作品社

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

イスラムの中核理解に

 イスラーム思想は現代の日本人には馴染(なじ)みにくいところがある。西洋中世哲学はイスラーム哲学の輸入にすぎないという解釈まであるほどで、重要ではあるのだが難しい。

 著者ナーブルスィーは、18世紀の神学者で、スーフィズムという特徴を有する。スーフィズムは、内面的な心のあり方を重視する思想で、外面的な法制度を重視する法学者と対立するが、歴史的に重要な思想だ。この書は内面にばかりこだわる本ではない。宇宙的な感覚に満ちており、壮大なスケールの思想が展開されている。神のみが本当に存在し、被造物は幻のごときものであると述べる。だが、両者は隔絶しているのではなく、その間に階梯(かいてい)があって、その階梯を世俗の生活の中でどのように登っていくか、それが課題とされている。宇宙論でありながら、具体的な行動の指針にも満ちている。一見とっつきにくいが、心の底で似たものを感じることは難しくないと思う。

 存在という根本原理から総(すべ)てが現れてくるとされる。といって総てが神に還元されるのではない。絶対的存在たる神と人間の間に、直接的な一致を求めるのではなく、具体的な行為が設定されるのだ。「完全人間」という理想的な人間の姿に向かって段階を追って接近すべきだという。禅の修行の段階と似たところがあるが、隠遁(いんとん)して世間を離れるのではなく、俗世の中で追究される思想である。哲学的枠組みを日常生活での具体的な生活に反映させる方法が展開されているのである。

 日本ではこれまで井筒俊彦による解説が多かったが、本書は若手の訳者による偉業であると私は思う。訳者解説が素晴らしく、まずここを読んでから本文に入るのがよい。本文は難しいが味読すべき内容が多く含まれる。イスラームと聞くと危険な宗教と思う人は多いようだ。知らないままの対立ほど恐ろしいことはない。本書はイスラームの中核を理解する上で重要な手がかりを与えてくれる本だ。山本直輝訳。

読売新聞
2019年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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