西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム ダグラス・マレー著…東洋経済新報社

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西洋の自死

『西洋の自死』

著者
ダグラス・マレー [著]/中野 剛志 [解説]/町田 敦夫 [訳]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492444504
発売日
2018/12/14
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム ダグラス・マレー著…東洋経済新報社

[レビュアー] 鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

THE STRANGE DEATH OF EUROPE
自己崩壊に陥る欧州

 英国で人気のある新生児の名前は「モハメッド」なのだという。欧州では激増する移民、出生率の違いにより、人口構成の逆転が起きている。英国の男性の大半が「モハメッド」になっても、「英国的」であり続けられるだろうか。

 第2次大戦後、労働力が不足する欧州の高度経済成長を支えたのは、トルコなどからの労働移民だった。そして2015年、シリア内戦を契機に、膨大な数のイスラムの教えに従う難民が地中海をボートで渡り、欧州に押し寄せたとき、ドイツのメルケル首相は、「欧州は一体となって行動し、また各国が保護を求める難民への責任を分かち合わなければなりません」と、率先して受け入れる姿勢を示した。これはメディアに称賛されたが、大量の移民が、EU域内で移動を始めた結果、社会に大きな混乱をもたらしたことはよく知られている。

 多文化共生とは聞こえがいいが、著者は否定的な立場だ。欧州各地における人権の文化、とくに女性の権利というものは、必ずしも「我々の社会にやって来る人々」が共有するものではなく、むしろ「古代ギリシャとローマから生まれ出(い)で、キリスト教に影響を与えられ、啓蒙(けいもう)思想の炎によって精錬された欧州社会」が生んだ例外だったと指摘する。

 そして政治家やマスコミが移民問題について、「人種差別主義者」と批判されることを恐れて、腰が引けた対応しかとらないことを批判する。本書のタイトルは、こうした状況について著者が「欧州は自死を遂げつつある」と例えたことに由来する。

 ローマはゲルマン人の民族移動によって崩壊したのではなく、内部崩壊だったという説を読んだことがある。その説は、そのまま欧州が自己崩壊に陥っている現状に当てはまるのではないか。欧州の歴史、文化に対する見識に裏打ちされた本書は、そんな不安と恐怖を呼び起こさせる。町田敦夫訳。

読売新聞
2019年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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