クネレルのサマーキャンプ…エトガル・ケレット著

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クネレルのサマーキャンプ

『クネレルのサマーキャンプ』

著者
エトガル・ケレット [著]/母袋 夏生 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309207599
発売日
2018/11/28
価格
2,106円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

クネレルのサマーキャンプ…エトガル・ケレット著

[レビュアー] 村田沙耶香(作家)

 読んだ人を「愛(いと)おしい」という気持ちにさせる本がある。この短編集は、まさにそういう一冊だ。偽善がなくて、突拍子がなくて、それなのに普遍性があり、自分の心にすとんと落ちてくる。「愛おしい」物語が詰まっている。

 表題作は自殺した人間だけがあつまる奇妙な世界が舞台だ。主人公は自分の死後、自殺をしたという恋人を探し旅に出る。死後の世界ではなく、自殺後の世界。幼いころから想像していた、単なる死後の世界とはまったく違った世界が広がっていく。ある人物が、さらにその先の世界へと旅立っていく場面には意表をつかれ、そこがどんな場所だか想像せずにはいられなかった。

 表題作の他にも、この本には奇妙で愛おしい物語が連なっている。「子宮」では、幼い頃母が摘出した子宮があまりに美しく、美術館に寄付される。「点滴薬」ではガールフレンドが孤独薬を注文してしまう。突拍子もないようで、人物たちの感情には、生身の人間の持つ普遍性がしっかりと宿っている。だから、私はこの物語たちを、遠い世界ではなく自分の物語として慈しむことができるのだろう。母袋夏生訳。(河出書房新社、1950円)

読売新聞
2019年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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