名古屋と明治維新 羽賀祥二、名古屋市蓬左文庫編著…風媒社

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名古屋と明治維新

『名古屋と明治維新』

著者
羽賀祥二 [著、編集]/名古屋市蓬左文庫 [著、編集]
出版社
風媒社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784833105798
発売日
2018/11/15
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

名古屋と明治維新 羽賀祥二、名古屋市蓬左文庫編著…風媒社 2200円

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

幕末尾張の多様な史料

 尾張徳川家は徳川家康の九男義直を始祖とし、御三家筆頭の格式を誇った。代々の当主は名古屋城を居城として62万石余の領地を支配し、260年にわたる歴史を刻んだのである。近世の尾張名古屋は文化豊かな地として、身分の高下を問わず多くの文人を生み、その成果は尾張藩の御文庫に蓄積された。これらの蔵書群は名古屋市蓬左(ほうさ)文庫として、現在では名古屋市が管理しており、さらなる収集と研究・整理・公開の努力が続けられている。本書は同文庫が所蔵する幕末維新期の史料を用いて、尾張名古屋が経験した激動の時代を論じたものである。

 全体は2部構成で、第1部「激動の幕末尾張藩」では、藩主や藩政の動向を中心に、第2部「変わりゆく社会と文化」は、当時の世相や生活に視点をとって、政治と社会の両面から、同地に根差す人々の営みを生き生きと描いている。

 尾張徳川家は第9代宗睦(むねちか)の死によって断絶し、その後は他家からの養子で維持されていた。幕末の同家を主導した第14代藩主の慶勝(よしかつ)・第15代の茂徳(もちなが)は兄弟の関係にあり、分家の高須松平家から養子に入っている。藩内では、前者を支持する勤王派と、これに反発して茂徳を擁立した佐幕派とが対立していた。慶勝は朝幕間の周旋に尽力し、尾張藩は王政復古に貢献したと認められたが、その直後には青松葉(あおまつば)事件と呼ばれる厳しい佐幕派粛清が行われることとなった。この一件が藩士や遺族たちに与えた傷は深く、昭和の時代にいたっても、言及をタブー視する雰囲気があったという。

 複雑で、ときに陰惨でもある幕末尾張藩の解明に用いられる史料は多様性に富み、「こんなものが残っているのか」と驚かされる。全204冊から成る編年の記録「青窓紀聞」を筆頭に、「尾張名所図会」その他の絵図類、慶勝側近のまとめた書簡集など、国内外の新しい情報に接し、記録にとどめ、後世に伝えようとする熱量がすばらしい。

読売新聞
2019年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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