<東北の本棚>粗料理に挑んだ男描く

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骨まで愛して

『骨まで愛して』

著者
小泉 武夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784104548064
発売日
2018/12/21
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>粗料理に挑んだ男描く

[レビュアー] 河北新報

 発酵学の第一人者の著者による書き下ろし小説だ。主人公は東京・築地魚市場のさばき屋、鳥海五郎。巨大な生マグロを1日何本も解体してきた。築地でその名を知らない者はいない。
 いわき市に生まれ、漁師の家の末っ子だった五郎は、中学卒業とともに築地に入った。解体の技術に磨きをかけるとともに、店でもらうマグロの中落ちなどを思いのままに料理している。26歳で結婚したものの2年足らずで離婚し、1人で悠々と新しい味を追求していた。
 五郎の長年の夢は魚の粗(あら)だけを使った料理屋を開くこと。日本では前例のない挑戦だ。55歳で40年の魚河岸生活に終止符を打ち、市場近くの横丁に出店。店名はずばり「粗屋」とした。
 粗の持つ複雑なうま味を存分に生かした、意外性あふれる料理を格安で提供。やがてマスコミもこぞって取り上げるようになり、何カ月も先まで予約が埋まる人気店になっていく。
 提供する料理の数がすごい。骨料理は「氷頭(ひず)なます」「コチの骨飯」など21品、皮料理は「皮煎(い)り」「ハモの皮なます」など53品。そのほか頭部と目玉の料理、ひれ料理、浮袋料理、胃袋、心臓、腸、卵巣、白子料理などを合わせると360以上。さらに伊豆半島の「粗神様」に伝わる粗を使った万能の霊薬、中国の粗の干物を使った料理、日本各地の粗料理なども研究し、メニューをどんどん充実させていく。
 料理法や味も詳しく説明。著者の粗料理への強い思いが、随所に反映されている。登場する料理を食べてみたくなる人は多いだろう。
 一言で言えば、食の世界を切り開いた五郎の成功物語だ。多くの人が登場するが、悪人はいない。トラブルが起きてもすぐ解決する。文学的な価値観とは別な次元で書かれた、食文化を深く、多角的に追求した小説と言えるだろう。
 著者は1943年福島県小野町生まれ。東京農大名誉教授。和食の魅力を広く伝えてきた。
 新潮社03(3266)5111=1404円。

河北新報
2019年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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