<東北の本棚>悩みながら徐々に成長

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泣くな研修医

『泣くな研修医』

著者
中山祐次郎 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344034235
発売日
2019/02/07
価格
1,430円(税込)

<東北の本棚>悩みながら徐々に成長

[レビュアー] 河北新報

 郡山市の総合南東北病院外科医長である著者が初めて執筆した小説だ。素朴な男性研修医がさまざまな問題に直面する中、医療現場でもまれ、悩みながら成長していく様子をリアリティーと人間味ある描写で描いた。医師は生半可な気持ちでは務まらない人の命を預かる職業だ。その使命感と責務を浮き彫りにした。巧みな構成と引き締まった文体は、作家としての才能を感じさせる。
 25歳の雨野隆治は鹿児島の大学の医学部を卒業して上京し、都内の総合病院の外科で研修医として勤めている。だが、新米の雨野は経験不足のため、先輩医師らから厳しく指導される日々を送っていた。しかし、雨野はくじけずに医師として少しずつ力を付けていく。
 雨野と同い年で末期がんの青年や交通事故に遭い、瀕死(ひんし)の5歳の男の子…。雨野はさまざまな患者と向き合う中で、医療現場の厳しさと責任の重さを実感したり、理想と現実のはざまで葛藤したりする。
 研修医の勤務実態や病状の告知の仕方、みとり、感情と理性のバランスの取り方…。現役の医師だけに会話や描写に説得力があり、医療現場の生々しい雰囲気や患者と心を通わせていく過程がしっかりと描かれている。雨野が医師を志した理由が明らかになる場面は哀切な思いがあふれ、胸に迫ってくる。
 著者は1980年横浜市生まれ。鹿児島大医学部卒。東京都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として10年間勤務。2017年2、3月に福島県広野町の高野病院長を務めた後に現職に就いた。著書に「医者の本音」などがある。
 幻冬舎03(5411)6222=1404円。

河北新報
2019年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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