「図書委員」男子高生2人が探偵役の“鮮やか”ミステリ

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本と鍵の季節 = The Book and The Key

『本と鍵の季節 = The Book and The Key』

著者
米澤, 穂信, 1978-
出版社
集英社
ISBN
9784087711738
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

「図書委員」男子高生2人が探偵役の“鮮やか”ミステリ

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 中高生のころ、図書室をよく利用していたわりに、図書委員の友だちがいなかったせいか、今でも“図書委員”という言葉に、なんとなく特別な響きを感じる。放課後の図書室、貸し出しカウンターの向こう側にいられる、特権的な生徒たち……。

 米澤穂信『本と鍵の季節』は、その図書委員を探偵役に起用した、全6話の本格ミステリ連作短編集。

 米澤穂信の学園ミステリと言えば、〈古典部〉シリーズにしろ、〈小市民〉シリーズにしろ、男女ペアが基本だったが、今回は高校2年生男子の二人組が主役をつとめる。すなわち、語り手の“僕”こと堀川次郎と、長身でイケメンの松倉詩門。受験を控えた3年生が図書委員会を抜けると、この二人だけで仕事をこなすことが多くなる。貸し出し作業以外にも、新着図書の受け入れ事務、返却された本の整理と傷んだ本の補修、貸し出し期限を守らない利用者に督促状を出すこと……。

 そうした本来の業務の合間に、二人は先輩や後輩から、さまざまな依頼を受ける。いわく、祖父が遺したダイアル式の“開かずの金庫”の番号を探り当ててほしい。試験問題を盗もうとしたと疑われている兄のアリバイを証明してほしい。自殺した同級生が、死ぬ何日か前に手にしていた本を見つけてほしい――。

 連れ立って出かけた美容室で二人がささやかな謎に出くわす話もはさまるものの、だいたいは、図書室を主な舞台に、“本と鍵”が関係する小事件が描かれる。ダブル名探偵の軽妙なやりとりは(ところどころ)まるでコントのよう。もっとも、解決のテイストはほろ苦く、最後の2話では、二人の関係を左右するような深刻な謎も提示される。

 米澤ミステリだけに、手がかりの提示や推理の過程はじつに鮮やか。実在の本のタイトル(ちなみに、最初に出てくるのはダン・シモンズの『ハイペリオン』です)を交えつつ、“図書委員の裏側”をたっぷり見せてくれるのも楽しい。

新潮社 週刊新潮
2019年2月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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