大藪春彦賞に相応しい骨太の筆致と明晰な視線 河﨑秋子の『肉弾』〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

4
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肉弾

『肉弾』

著者
河崎 秋子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041053829
発売日
2017/10/06
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

大藪春彦賞に相応しい骨太の筆致と明晰な視線 河﨑秋子の『肉弾』

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

『野獣死すべし』『蘇える金狼』『汚れた英雄』といった、激しいアクションや暴力描写を特徴とするハードボイルドや冒険小説で知られる作家・大藪春彦。その業績を記念し、「優れた物語世界の精神を継承する新進気鋭の作家及び作品」に贈られるのが、大藪春彦賞です。

 現在の選考委員は、大沢在昌、黒川博行、藤田宜永の三氏。大藪春彦賞選考委員会と後援の徳間書店から、正賞として顕彰牌・賞状と、副賞三百万円(二作同時受賞の場合は、各百五十万円)が贈られます。

 一月二十三日に発表された第二十一回受賞作は、河崎秋子の『肉弾』(KADOKAWA)と葉真中顕『凍てつく太陽』(幻冬舎)。葉真中作品は未読なのですが、河崎作品はわたしも大変面白く読みました。

 豪放磊落な父に無理矢理連れられ、北海道まで鹿猟にやってきたキミヤ。未熟で無責任な飼い主に捨てられたり、そのもとから逃げ出してきた犬たち。巨大で凶暴なヒグマ。カルデラ地帯に広がる深い森の中で三者が遭遇し、生き残るための戦いを繰り広げる『肉弾』は、迫真の描写に手に汗握り、最終章では熱い涙を流してしまうほどの深い感動が得られる小説なんです。

 長距離走に挫折した経験をきっかけに無気力になり、大学も一年で休学し、引きこもりの生活を送っていたキミヤ。人間の都合で山中に捨てられた七五パーセントオオカミの血を引く雌のハスキー犬ラウダをリーダーに戴く野犬の集団。自信過剰な父親のヒグマを撃ちたいという願望から、禁猟区に引きずりこまれてしまったキミヤの四日にわたるサバイバルの日々を描く中、作者は、人間と犬たちの来し方のエピソードを挿入します。そのことで読者の彼らへのシンパシーの度合いを深めさせつつ、ヒグマとの遭遇と壮絶な戦いというクライマックスへと、物語をサスペンスフルに展開していくんです。

 自然描写が巧みな上、環境破壊に対する視点も併せ持つ、骨太の筆致と明晰な視線が特徴的。北海道で羊を飼い、チーズを作る牧畜生活の中で、小説を書き続けている河崎秋子の名を、大藪春彦賞の受賞をきっかけに覚えて下さい。

新潮社 週刊新潮
2019年2月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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