チームの生産性を抜本的に改善する「ふりかえり」の方法

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管理ゼロで成果はあがる

『管理ゼロで成果はあがる』

著者
倉貫義人 [著]
出版社
技術評論社
ISBN
9784297103583
発売日
2019/01/24
価格
1,738円(税込)

チームの生産性を抜本的に改善する「ふりかえり」の方法

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

管理ゼロで成果はあがる 「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』(倉貫義人著、技術評論社)の著者は、システム開発を行なっているという株式会社ソニックガーデンの創業者であり、代表取締役社長。

同社の社員は35名(2018年8月)で、その大半がプログラミングで仕事をするエンジニア集団だといいますが、同業他社にはないいくつもの特徴があるのだそうです。

最大のポイントは、本社オフィスがないこと。社員の半数以上が15都道府県にまたがる地方に住んでおり、在宅勤務で仕事をしているというのです。しかも全員が離れた場所にいるけれども、気軽に相談しあったり助け合ったり、ときには雑談したりしながら、チームワークを大切にして働いているのだとか。

オフィスがなければ人を管理できませんが、そもそも同社には管理職が1人もおらず、部署もなく、指示命令する上司もいないというのだから驚き。社員全員が自律的に考え、自主的に働く組織だというのです。

それでも、創業以来ずっと増収し続けて成長してきました。5人で始めた会社が、7年で35人になって、多くのお客様に喜んでもらって支えてもらっています。

その働き方と成果が評価されて、2018年には日本における「働きがいのある会社ランキング」(意識調査機関Great Place to Workが実施)の小規模部門で5位のベストカンパニーで入賞、「第3回ホワイト企業アワード」(日本次世代企業普及機構が選出)でもイクボス部門に入賞しました。(「はじめに」より)

なんとも理想的ですが、このような形態にしたことには、かつて著者が管理職として働いていた、社員3000人ほどのシステム開発会社での経験が影響しているようです。

本来、システム開発は、新しい価値を生み出す提案や、高度な技術を駆使したプログラミングなど、とても創造的な仕事であるはず。しかし会社の規模が大きいだけに、いつしかルールを守らせることが求められることになっていったというのです。

その結果、独創性は失われ、社員たちのやる気は下がり、生産性が落ちていくことに。

ルールで縛れば縛るほど、自分たちで考えることを放棄するようになっていったということ。そのため、現在の会社の前身である社内ベンチャーをはじめたときには、なるべく管理をなくすことを目指したわけです。するとその結果、チーム全体の生産性は高まっていったわけです。

ただし、いきなり「管理をやめて自由にして、個人ごとに好きに働けばいい」ということにしてもうまくはいかないといいます。長きにわたって取り組んできたことを振り返ると、そこには大きく3つの段階が。

・ 第1段階:生産的に働く(楽に成果をあげるために見直す)

・ 第2段階:自律的に働く(人を支配しているものをなくす)

・ 第3段階:独創的に働く(常識や慣習に従うことをやめる)

(「はじめに」より)

きょうは第1段階について解説した第1章「生産的に働く ~楽に成果をあげるために“見直す”」内の「やり方を見直す~「ふりかえり」で抜本的に生産性を改善する」のなかから、いくつかのトピックスをピックアップしてみたいと思います。

木こりのジレンマ

木こりのジレンマという話があります。刃こぼれした斧で一生懸命に木を切っている木こりに「斧を研いだらどうか」というアドバイスをしたところ、「木を切るのに忙しくて、斧を研ぐ暇はない」と答えたという逸話です。(26ページより)

冗談のような話ですが、多くの現場ではこの木こりのジレンマに似たようなことが起きているのだと著者は指摘しています。

進捗の遅れをカバーするために残業をしたり、人が足りなければ採用し、育たないなら研修に行かせたりするわけです。

それは、必ずしも間違いではないかもしれません。とはいえ、そうした真正面からのアプローチは単なる対処療法

たとえば一度でも進捗遅れを残業でカバーしてしまうと、その先もずっと残業でカバーし続けることになってしまうわけです。がんばってカバーしてしまうと、それが間違った成功体験になって続けてしまうということ。

しかし、それではいつか破綻してしまうので、抜本的にやり方を見なおしていくことが必要。著者は、そうした仕事のやり方を見なおす時間を「ふりかえり」と呼んでいるそうです。

文字どおり、現場の活動をふりかえり、改善のアクションを考える時間。

定期的に実施して仕事の進め方を見なおすことにより、抜本的な問題解決と、高い生産性を実現しようということです。(26ページより)

ふりかえりの4つのポイント

ふりかえりで見なおすのは業務そのものではなく、業務の進め方仕事のやり方。「進捗が遅れているからスケジュールを見なおそう」ということを話すのではなく、「遅れそうなときに2人でペアになって作業してよかった」とか「先輩が席にいなくて相談するタイミングがなくて困った」といった、仕事をしているなかでの気づきを共有するわけです。

そのため必要なのは、いつも仕事をしている目線から少し移転を下げて見ること。

「なぜ、そうした問題が起きるようになったのか」 「問題をそのままにしておくと再発してしまうかどうか」というように、時間的にも長く見るのがふりかえりの視点だとおうこと。なお、その際にはコツが4つあるそうです。

①KPTでふりかえりをする

ふりかえりに必要なのはホワイトボード1枚だけ。その画面を、ふりかえりをうまくするためのフレームワークである「KPT」という3つの領域に分けるのだそうです。

・ Keep=よかったこと

・ Problem=悪かったこと

・ Try=次に試すこと

(30ページより)

②とにかく全員で出し切ることを優先する

最初にするのは、よかったこと(K)と悪かったこと(P)を洗い出していくこと。その際には起きた事象そのものだけではなく、「よかったことや悪かったことに至った経緯」についても共有するといいそうです。

ひとつひとつについて議論をしているときりがないので、まずは、とにかく全員で出し切ることを優先すべき。KとPは、メンバーがそれぞれ個人で思いついたことや、抱えていた悩み、困っていることを中心に出していってもかまわないといいます。

ひとりずつ気づきをみんなの前に出すことで、個人のKとPがチームのKとPに変わるというわけです。

よかったことと悪かったことが出尽くしたら、全員で共有したうえで、次に試すこと(T)を議論。そこからは、チーム全体で取り組む段階。

③精神論でなく、具体的なアクションに落とし込む

たとえば、「ミスしないように気をつける」というようなTだと、漠然としすぎています。考えるべきは、(正解である必要はないものの)あとから検証できる仮説となるアクション。

Problem「2日連続で寝坊してしまった」

【NG】Try「早起きするよう気をつける」

【OK】Try「目覚し時計を買う」

(31ページより)

④週に一度、1時間のふりかえりから始める

ふりかえりは週に一度、1時間ほどチームで取り組むところから始めるといいそうです。頻度を短くするほど早くに方向修正でき、修正する量も少なくてすむから。

最初のふりかえりは長くなってしまうかもしれませんが、毎週やっていれば短い時間でもできるようになっていくといいます。そしてだんだん、ふりかえりをすることが当たり前のことになっていくわけです。(27ページより)

継続することでチームに改善の意識が定着

ふりかえりで大切なのは、一度きりで終わらせるのではなく、続けていくこと。年に一度の大反省会をするより、毎週少しずつ改善するほうがいいということ。

そうすれば、試したことがうまくいかなかったとしても、修正するチャンスが訪れるからです。何度も何度も自分たちの仕事の進め方を見なおし、もっとも生産性の出る方法を見つけていくのです。

しかも、一緒にチームや現場を改善するためのアイデアを出していくことを続けていけば、チームとしてのまとまりも生まれます。他の人がやっているいい方法を共有してもらえば、それぞれの仕事に取り入れることも可能。

ふりかえりを続けていく大きな効果は、「自分たちの現場は自分たちで改善していくのだ」という意識がチームに根付くことです。

改善の意識が定着すれば、マネージャーや上司が指導しなくても、自分たちで改善を重ねていくことができるようになります。(32ページより)

生産性の高いチームの特徴は、メンバーひとりひとりが考えて行動できること。チームの問題を自分ごととして捉え、互いに率先して解決しようとする姿勢があってこそ、“いいチーム”だといえるわけです。(32ページより)

本書で著者が紹介しているアプローチは、なるべく楽にして成果をあげること、自律性を与えて自由に働くこと、他者と争わない独自のスタイルを見つけることを段階的に変えていくというもの。

そのために、いまある状態を「見なおす」「なくす」「やめる」という引き算の考え方だというわけです。

引き算のアプローチは勇気がいるものですが、著者自身がそれを実践した結果、可能性はゼロではないと証明できたのだといいます。

だからこそ本書を組織やチームの仲間と共有し、「自分たちならどうするだろう」と考えたり議論するきっかけにしてもらいたいのだと著者は訴えるのです。

その価値は、きっとあるはず。組織をよりよくしていくために、ぜひ手にとっていただきたい1冊です。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2019年2月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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