宇宙で一番最初に生まれた星はどうやってできたのか? 最新シミュレーションで初期宇宙を再現

インタビュー

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地球一やさしい宇宙の話

『地球一やさしい宇宙の話』

著者
吉田 直紀 [著]
出版社
小学館
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784093886369
発売日
2018/12/12
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宇宙で一番最初に生まれた星はどうやってできたのか? 最新シミュレーションで初期宇宙を再現

[文] 中野富美子

こちらはハッブル望遠鏡が捉えた“星のゆりかご”NGC346星雲。天の川銀河のすぐ隣にある小マゼラン雲に属するNGC346星雲は、いまも多くの星を生みだしている。「宇宙の一番星」ができたあと、それが超新星爆発して生まれた材料などを使ってこうした星々が生まれたと考えられている。NASA, ESA and A. Nota (STScI/ESA)
こちらはハッブル望遠鏡が捉えた“星のゆりかご”NGC346星雲。天の川銀河のすぐ隣にある小マゼラン雲に属するNGC346星雲は、いまも多くの星を生みだしている。「宇宙の一番星」ができたあと、それが超新星爆発して生まれた材料などを使ってこうした星々が生まれたと考えられている。NASA, ESA and A. Nota (STScI/ESA)

昨年12月に『地球一やさしい宇宙の話』を刊行した宇宙物理学者の吉田直紀さんは、当時の宇宙に存在していた材料を集めて、コンピュータ・シミュレーションで星をつくることに成功。さらに、ありえないほど巨大なブラックホールの謎も解き明かした。キーワードは「重力」。じつは「宇宙は重力の賜」なのだ。

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星ができたのは重力のおかげだった!

◎――ビッグバンのあと、宇宙に最初の星ができるときにも重力が重要な役割を果たしたんですよね。

吉田 そうです。水素やヘリウムという、初期の宇宙に存在していた物質(ガス)がうっすらと漂うだけでは、星ができることはありませんでした。そこにもうひとつ、重力の源として働く「ダークマター」があったおかげで、「宇宙の一番星」(ファーストスター)ができたのです。
 ファーストスターをコンピュータシミュレーションで再現する研究は、2001年から始めました。
 じつは、ぼくたちの研究は、ファーストスターをつくりたくてシミュレーションしていたのではありません。宇宙の始まりのころの「ゆらぎ」(物質が集まっているところと、そうでもないところという濃淡)など、観測でわかっている条件をすべて入れて計算し、コンピュータ上で時間を進めたら、ファーストスターができた、ということだったのです。
 シミュレーションで得られた結果が、実際の宇宙でも起こっていたのかどうか、確証はありません。現在、人類がもっている科学技術の知識を総動員し、10年以上もかけて得られた結果ではありますが、ぼくたち人類がまだ知り得ていないことはあるでしょうから。
 それでも、これまでの古い星々の観測結果と矛盾はしていないし、このシミュレーションを否定するような事実も明らかになってはいません。ですからいまのところ、本書で紹介したような過程を踏んでさまざまな星ができ、銀河ができていったのだろうなと思います。

「宇宙の一番星」はこうしてできた!――イラスト:吉田しんこ
「宇宙の一番星」はこうしてできた!――イラスト:吉田しんこ

宇宙に風が吹いているってホント!?

◎――ファーストスターの研究が、「重力」の塊ともいえる巨大ブラックホールの研究に繋がっていったということも、非常におもしろいところです。

※宇宙ができて最初のころ(129億年前)に、太陽質量の120億倍という巨大なブラックホールが見つかりました。宇宙ができたのは138億年前なので、それから9億年しかたっていません。ブラックホールは質量の大きな星が超新星爆発した結果できるものと考えられており、巨大なブラックホールは、それよりはるかに大きい星が超新星爆発するか、いくつものブラックホールが合体してできるものと考えられていました。ところが、大きな星をつくる材料を集めるには、9億年では時間が足りなかっただろうと思われるので、この巨大ブラックホールの存在には研究者たちが首をひねっていたのです。吉田先生たちのチームは、この謎を解明することに成功しました。

吉田 2008年にファーストスターの論文を発表したあと、2010年ころから「宇宙に吹く風」の研究が盛んになってきました。そこで、ファーストスターの研究手法に、風の要素を加えて詳細にシミュレーションすると、短期間に非常に大きな星ができることもあるとわかったのです。
 これも、最初から巨大ブラックホールの謎を解明するのが目的だったのではなく、生まれたばかりの宇宙で何が起こっていたかをコンピュータ上で“観察”した結果です。風がない場合と比べて、風を考慮に入れると、はるかに大きな星ができることがわかった、ということです。
 そして、その大きな星が寿命をむかえるときに、巨大ブラックホールを残すということも分かりました。
 つまり、数は少ないが宇宙の初期に確かに存在した超巨大ブラックホールの謎を、スッキリと説明することができたのです。

◎――こうして結果だけをうかがっていると、宇宙の謎を次々に解明している、超エリート研究室のようにも聞こえてきますが……。

吉田 いえいえ、論文を発表して、話題になったりするのは成功したときだけで、たとえばファーストスターの研究の成功率は1%くらいです。100回試行して、1回うまくいくかどうかというレベルではないでしょうか。
 ただ、失敗もけっして無駄ではありません。たとえば、ぼくの研究の結果が、のちの観測結果と違っていたとしたら、それは「失敗」ではなく、「研究したときには、まだ人類が知らなかったことがあった」という新たな「発見」でもあるわけです。
 理論研究は、失敗してなんぼのものです。実際の宇宙と一致しない事柄を含めて、失敗したことで、何かの重要性に気づいたり、腑に落ちたりすることがあります。
 そういうときにこそ、研究の対象に少し近づくことができた気がして、うれしく感じるんです。

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<プロフィール>
吉田直紀(宇宙物理学者)
1973年、千葉県生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、同大学院工学系研究科修了。2002年、マックスプランク宇宙物理学研究所(ドイツ)博士課程修了。ハーバード大学天文学科博士研究員、名古屋大学助教等を経て、東京大学大学院理学系研究科教授(現職)。カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員も兼任する。宇宙論と理論天体物理学の研究に従事し、スーパーコンピュータを駆使してダークマターやダークエネルギーの謎に挑んでいる。著書に『宇宙137億年解読』(東京大学出版会)、『宇宙で最初の星はどうやって生まれたのか』(宝島新書)、『ムラムラする宇宙』(学研)などがある。

インタビュアー 中野富美子

小学館
2019年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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