吉田謙吉と12坪の家 布野修司、平田オリザ、塩沢珠江著 LIXIL出版

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吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密

『吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密』

著者
塩澤珠江 [著]/平田オリザ [著]/布野修司 [著]
出版社
LIXIL出版
ISBN
9784864805247
発売日
2018/12/20
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

吉田謙吉と12坪の家 布野修司、平田オリザ、塩沢珠江著 LIXIL出版

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

考現学と建築の関係

 この20年ほど私の本棚の一番よい位置に鎮座し続けているのは、『今和次郎(こんわじろう)集第1巻「考現学」』。考現学とは1927年、今によって創設された学問分野だ。考古学に対抗したネーミングで、現代風俗、世相の研究を指す。例えば、街角に立ち、街ゆく人の服装、髪型、持ち物などを事細かに観察し、鉛筆でノートに書き留め分析する。第1回展覧会では「丸ビル紳士いねむり状態」「1926年銀座カフェー女給の服装」「某新婚家庭物品一切しらべ」「おしめの紋様帳」等、その調査範囲は多岐にわたる。

 吉田謙吉(1897~1982年)は、東京美術学校の後輩として今和次郎に親炙(しんしゃ)し、考現学研究では今のよきパートナーとして活躍した人物。本書では、文筆、装幀(そうてい)、挿画、店舗内装など幅広い分野で活躍した舞台美術家・吉田謙吉が建てた家を軸に、彼の活動が紹介される。

 第1幕は、第2次世界大戦後、法令で新築住宅の上限が12坪(約40平方メートル)に制限される中で建てられた小ステージのある住宅について。人にモノに面白味を見いだし愛(いと)おしむ吉田ならでは、大胆な工夫溢(あふ)れる「作品」となっている。第2幕では、12坪の家への系譜として、関東大震災後バラックを美しくする仕事一切を請け負った「バラック装飾社」が登場。「考現学」に関しては、ラブレターの保管方法、パリの市場のスケッチなど魅力的なイラスト図版が嬉(うれ)しい。第3幕は、築地小劇場での仕事、そして店舗設計を見せる。吉田の文章が適宜引用される他、吉田の長女で「吉田謙吉・資料編纂(へんさん)室」代表を務める塩沢珠江らが文章を寄せる。

 アートディレクションは、冒険的な装幀で知られるグラフィックデザイナー・祖父江慎。吉田家の実物大引っ越し案内ハガキが挿入されるなど、造りが凝っており、本そのものがとってもチャーミングだ。LIXILギャラリーで開催の同名展覧会もお薦め。大阪は19日まで、東京は3月7日から5月25日まで。

読売新聞
2019年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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