遠きにありて 西川美和著 文芸春秋/日本野球をつくった男―石本秀一伝 西本恵著 講談社

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遠きにありて

『遠きにありて』

著者
西川 美和 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163909486
発売日
2018/12/13
価格
1,674円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日本野球をつくった男――石本秀一伝

『日本野球をつくった男――石本秀一伝』

著者
西本 恵 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784065138991
発売日
2018/11/30
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

遠きにありて 西川美和著 文芸春秋/日本野球をつくった男―石本秀一伝 西本恵著 講談社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者)

苦しい試合ほど楽しい

 カープ、カープ広島、広島カープ、と、この2冊の行間から応援歌が聞こえてくる。ページ数は好対照なものの、野球への熱は共通する。

 『遠きにありて』の著者は、カープを父親みたいに思う。離れるまでは恥ずかしかった広島に、都会に出れば孝行したくなる。なぜなら、いつも敗北する、弱さを噛(か)みしめることもまた、ふるさとのような居心地だったからだ。

 3連覇を果たし、セ・リーグ一強となる近年まで、長くBクラスに甘んじる。映画監督である著者にも、こんな「愛される物語」は、おとぎ話のように信じられない。そんな「赤い病」のゆえか、作品の主人公を、鉄人・衣笠祥雄から借りてキヌガサ・サチオと名付ける。

 若き衣笠が慕っていたコーチを『日本野球をつくった男 石本秀一伝』は描く。衣笠も驚いた「袋小便」は、実際に本書をあたって頂くとして、そのファイトに魅せられよう。

 明治生まれの石本は、新聞記者との兼業から野球指導者の道を歩み始める。戦前にはタイガースを、戦後には初代監督としてカープを率いる。広島ではチーム存続のための金集めにまで奔走する。コーチとして西鉄では稲尾和久、中日では権藤博という伝説のピッチャーを指導する。カープに戻り初優勝の下地を作る。その野球の哲学は、勝つことであり、感情には揺れない。石本は「野球の中で生きていた」。

 野球と人生を同じだと信じるから、石本のように、周囲が病と見まがうほどの強烈な個性は生まれる。同じ人間である以上、考えも体力も、さほど違わないとしても、やはり、怪物は誰にも似ていない。二刀流・大谷翔平や石本といった「寂しい人にしか、遠くには行けない」。怪物だけが未踏の境地にたどりつける。

 「苦しい試合ほど、観(み)ているほうは楽しいと思う」から、ベタすぎる結論を許してほしい。願わくは、西川美和監督・脚本により、石本秀一85年の生涯が映画化されんことを。

読売新聞
2019年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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