死刑囚最後の日 ヴィクトル・ユゴー著 光文社古典新訳文庫/デリダと死刑を考える 高桑和巳編著 白水社

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死刑囚最後の日

『死刑囚最後の日』

著者
ユゴー [著]/小倉孝誠 [訳]
出版社
光文社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784334753900
発売日
2018/12/07
価格
993円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

デリダと死刑を考える

『デリダと死刑を考える』

著者
高桑 和巳 [著、編集]/鵜飼 哲 [著]/江島 泰子 [著]/梅田 孝太 [著]/増田 一夫 [著]/郷原 佳以 [著]/石塚 伸一 [著]
出版社
白水社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784560096710
発売日
2018/11/27
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

死刑囚最後の日 ヴィクトル・ユゴー著 光文社古典新訳文庫/デリダと死刑を考える 高桑和巳編著 白水社

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

制度の是非を問う

 現代のヨーロッパでは、死刑廃止はほぼ完了している。フランスはミッテラン政権下、政治主導で死刑を廃止したが、ユゴー『死刑囚最後の日』(一八二九年)は廃止論の先駆として知られ、ようやく、完全版といえる形で新訳が出た。公開処刑の時代、ギロチンの下の血だまりを見て、一気に構想を固めた中編小説で、死刑判決を受けてから、恩赦の却下を経て処刑直前までが、「手記」という形式で綴(つづ)られているから、感情移入しやすい。

 第二版に添えた「ある悲劇をめぐる喜劇」が本邦初訳、「いまわしい本」「こんなことを思いついた作家がいて、それを読む読者がいるなんて」「きわめて不謹慎なことです」と、自作の評判を取り込んだ寸劇仕立てが興味深い。「一八三二年の序文」でユゴーは、死刑存続の三つの理由――〈1〉凶悪犯を排除して社会を守る〈2〉相応の罰を加えて被害者の復讐(ふくしゅう)をはたす〈3〉犯罪抑止効果――に逐一反駁(はんばく)していて、現在の廃止論にも影響を与えている。小倉孝誠訳。

 だが、こうした「人命の不可侵性」に基づく廃止論の曖昧性を突く形で、制度の根本に立ち返ったのがデリダであった。『デリダと死刑を考える』は、先に邦訳が出た講義録『死刑I』と共に思考すべく編まれた論文集で、声高な廃止論ではなく、原理的な考察を意識しつつ、ユゴーの廃止論やカントの死刑必要論が、ソクラテスからオウム真理教の元幹部までの裁判を俎上(そじょう)に、論じられる。

 共著者の1人である郷原佳以によれば、デリダの廃止論は「存置論の『論理性』と廃止論の『偽善』を強調する点で異質」な戦略を選択しており、これを踏まえた鵜飼哲、江島泰子、梅田孝太、増田一夫、石塚伸一の議論は重要だ。

 昨年、わが国では死刑執行数が増加したものの、国民の多くが死刑制度を支持する状況では、死刑に関する議論はむしろ低調であった。死刑制度について深く考え直すのに最適な書物。

読売新聞
2019年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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