『残業ゼロのノート術』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
頭が冴えている午前中を活用しよう。「残業」をゼロにする時間の使い方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『残業ゼロのノート術』(石川和男著、きずな出版)の著者による書籍は、以前にも何度かご紹介したことがあります。本業である建設会社総務経理担当部長を筆頭に、大学講師、時間管理コンサルタント、セミナー講師、税理士、ビジネス書作家と、6つの仕事を掛け持ちする「スーパーサラリーマン」。
著作にはそんな経験が反映されているわけですが、新刊である本書のテーマは残業をゼロにすること。事実、目が回るほど忙しいにもかかわらず、著者自身が一切残業をしないのだそうです。
かつては心が折れるような長時間残業をしていたものの、そんな生活に疑問を感じたことから心機一転。「あること」をした結果、残業漬けの生活を脱することができたというのです。
いまではどんなに遅くとも、建設会社の仕事は定時の17時で切り上げるのだとか。それでも仕事にまったく支障がないというのですから驚きです。
では、どうやって私は残業をゼロにできたのか。それに、もっとも貢献したのが、本書のタイトルにもあるように「ノート術」だったのです。
ノート術というと、難しいものを想像されるかもしれませんが、私の使い方はじつに簡単です。 本書のノート術を一言でいうと、「やることを書き出すだけ」です。
私はこれを、安直ですが、「やることノート」と呼んでいます。 本書では、「やることノート術」と、それに基づいた仕事術を紹介します。
本書を読んで実践し習慣化すれば、あなたの残業はゼロにできます。(「はじめに」より)
そんな本書のなかから、きょうは「時間の使い方」に焦点を当てた3章「残業をゼロにする時間の使い方」をご紹介したいと思います。
ここで著者が注目しているのは、多くの人が細かいところで時間を無駄遣いしているという事実。それを見なおすだけで、驚くほど多くの時間を得られるというのです。
午前中はガムシャラタイム
著者は、仕事を15分で区切ることを勧めています。理由は、普通の人が集中できる上限が15分だから。
とはいえ時間帯によっては、人間は15分よりもっと長く集中状態を維持することも可能。それは起床してからランチを食べるまで、すなわち午前中だということです。
この時間帯は、仕事のゴールデンタイム。頭が冴えている午前中の2時間のパフォーマンスは、夜の4時間や6時間に相当すると言われており、著者自身の体感でも2倍以上の効果があるのだそうです。
そこで、午前中は15分感覚で仕切るのではなく、30分とか45分とか、2~3コマ分の時間を連続して取り組んだほうが効率的なこともあります。
私は午前中のこの時間を「ガムシャラタイム」と名づけています。できればこの時間帯のうちに、1番時間がかかりそうな大きな仕事をやってしまいましょう。(89ページより)
その作業に集中するためには、「電話を取り次がせない」「メールには返信しない」「上司に声をかけないようにお願いする」などのルールを設けることが大切。
あるいは会社の空いている会議室に移動したり、近くのカフェやコワーキングスペースに避難するもの有効な手段だといいます。(88ページより)
朝からやる気を出すための15分ルーチン
朝のほうが集中力を発揮できるとはいっても、出社していきなりフルパワーで集中するのは難しいという方もいるはず。
睡眠時間の長さや長年の習慣が原因となっている場合もあるでしょうし、そもそも朝はエンジンがかかりにくいという人もいるのですから。
しかしそういう人は、出社してとりあえずコーヒーを飲んだり、メールのチェックをしたり、SNSを閲覧するなど、いつでもできる楽なことに午前の貴重な時間を使い、大きな仕事を無意識のうちに回避してしまいがち。
そこで著者は、どんな人でも気持ちを切り替え、午前中から大きな仕事に取り組むモチベーションをつくる方法を明かしています。
それは15分ルーチンワークです。コーヒーを飲んだり、メールやSNSチェックをしてもいいですが、要するにそれを15分で切り上げればいいのです。(中略)真の問題は、その簡単な作業に時間の制約をつけていないことなのです。
ルーチンワークは、時間を区切ってやりさえすれば、脳のウォーミングアップに最適です。15分程度で終わることをセットにしておき、それを終えたら仕事に取り組むことを習慣にしてみましょう。(91~92ページより)
もちろん午前中の15分は貴重ですから、もっと短時間で仕事モードに切り替えて集中する際の「スイッチ」を決めておくのもいいそうです。
たとえば著者の場合は、メガネを日常用から仕事用のものに変えることをスイッチにしているのだといいます。
職場では遠近両用の特殊なメガネをつかっているそうなのですが、普段(外用)のメガネを外し、仕事用(室内用)のメガネに変えた瞬間に「働くスイッチ」が入るということ。
でも当然ながら、そのスイッチは人それぞれ。「おはよう」とあいさつしたとき、コーヒーを飲み終わったときなど、「これをしたら集中モードに切り替える」というスイッチを自由に決めてみればいいのです。
しばらく続けるうちに習慣化され、以後はスイッチを入れるだけで無意識のうちに集中できるようになるそうです。(91ページより)
過去の自分と競争する
仕事に集中するためのコツのひとつが、「競争」の心理をうまく利用すること。ライバルを設定し、営業成績や収入など数値化できるパフォーマンスを競えばモチベーションが上がるというわけです。
もし競争相手が見つからないとしたら、過去の自分と競争するのも効果的。誰しも過去には、いまやっていることと同じか、あるいは似たような仕事を手がけたことがあるはず。
そこでそれらと比較し、「去年と同じ仕事を70%の時間で終える」「同じ時間をかけて質をアップする」など、昔の自分自身と競争してみようという考え方です。
他人との競争の場合、たまたま相手の調子が悪ければ、自分ががんばらなくても勝ててしまうことがあるもの。しかし過去の自分との競争においては、そのような“まぐれ勝ち”がないわけです。(104ページより)
社内の雑談で時間を浪費しないために
会社員の場合、特に集中して仕事をしたいときには「社内の人たちとの雑談」が意外と厄介。雑談にはコミュニケーションとして必要な側面もあるので、ゼロにする必要はないものの、内容や程度が問題になってくるわけです。
仕事とは関係のない雑談は、時間の浪費にもつながります。だからこそ、時間を区切ることが有効なのだと著者は主張しています。
なぜなら雑談そのものではなく、雑談をダラダラと続けてしまうことこそが真の問題だから。そのため、基準を設けるべきだという考え方です。
私のチームではルールを決めています。午前中の集中しなければならない時間帯は、雑談に限らず、緊急だったり、重要な話以外は話さないと決めています。
もちろん、工事現場で苦情を言ってきている方の対処方法や、聞かなければ先に進まない仕事の相談などは例外ですが。(107ページより)
著者はいつも部下に対し、「何分話せるか伝えてから話しはじめよう」と言っているのだそうです。たとえば「3分だけ話す」と決めておけばダラダラと長引くことにはならず、集中して話ができるから。
また、部下に対してあらかじめ厳密に指示を出しておくことも、自分が集中できる環境づくりのコツだといいます。
そのため朝のミーティングでは、多少時間がかかったとしても、部下があとから質問する必要がないくらいの指示を伝えるべきだということ。(106ページより)
上司の世間話をサクッと切り上げる裏ワザ
自分や同僚、部下との雑談であれば、対処法はいくらでもあるもの。ところが上司がおしゃべりである場合は、なにかと困ってしまうものです。
上司に話の締め切りを伝えることは難しく、邪険にもできないため、ついつきあっておしゃべりをし、自分の仕事をやる時間が足りなくなってしまったりするからです。
おしゃべりな上司対策としては、「自分はいま集中しているんだ、忙しいんだ」ということをそれとなくアピールする方法を準備しておきましょう。
機会を捉えて、自分が抱えている仕事の多さを伝えると効果的です。 そしてとっておきの方法があります。上司の話が始まったら、たとえば3分程度でなるようにセットしておいたアラームをオンにするのです。
そうすると3分後にアラームによってスマホが振動しますよね。それに、あたかも電話が来たかのように対応すればいいのです。(109ページより)
そうすれば、上司も話を切り上げるということ。著者の場合、同じく話が長いお客様が来たときなどにも、同じような手を使って「緊急な用事が入ったフリ」をし、早めに帰ってもらうことがあるのだそうです。(108ページより)
視野をシンプルにする
ごちゃごちゃした机は、それだけで集中の妨げになります。仕事に集中しようとしても、目の前の仕事以外の書類や資料などが視野に入ってしまうと、「そういえば、これはどうなっていたんだろう」などと気になってしまうわけです。
そのため、集中するためには、視野から余計なものを排除することも大切。
私の机の上には、いま取りかかっている仕事に必要なもの以外は何もありません。本当にゼロです。
私はパソコン用の机と書類仕事用の机の2つを使っていますが、パソコン用の机にはパソコンしかなく、書類仕事用の机の上には、どうしても必要な電話しか置いていません。
つまり、ペン立てもカレンダーもティッシュの箱すら、机の上にはないのです。(110~111ページより)
そうしておけば、視野内には集中すべき仕事しか存在しないことになり、気が散ることがなくなるということです。
そこで著者は、いますぐ必要になることはないが、身の回りに置いておきたい文房具屋や書類は机に出さず、引き出しにしまっておくことを勧めています。
ただし、しまい方にもコツが。ものが多すぎると、必然的に探し物をする時間も増えていくことになります。そのため、使わないものはどんどん処分するべきだということです。
もし片づけられない場合は、「〆切」を設定すると効果的。たとえば1年という〆切を決め、その間使わなかったものは捨てるようにすれば、それだけでものはかなり減ることになるわけです。
また必要なものも、「毎日使うもの」「週に一回くらい使うもの」「あまり使わないもの」と使用頻度で分けておくと、迷うことがなくなるといいます。
探すという時間はそれ自体が無駄ですが、害はそれだけではないそうです。集中して仕事をしているときに「消しゴムがない」「赤ペンがない」などというようなことになると、せっかく集中ゾーンに入っていたにもかかわらず現実世界に戻されてしまうから。
一度途切れた集中力を取り戻すのは大変なことですが、整理整頓の習慣がついていれば、探しものという無駄な時間を削減でき、集中力も失わずにすむということです。(110ページより)
「やることノート」の使い方に関しても、図版を豊富に盛り込みながらわかりやすい解説がなされています。
そのメソッドと、ここでご紹介したような“考え方”を取り入れてみれば、著者のような効率のよい時間活用術をものにできるかもしれません。
Photo: 印南敦史