ぼくの伯父さん 長谷川四郎物語 福島紀幸著…河出書房新社

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ぼくの伯父さん

『ぼくの伯父さん』

著者
福島 紀幸 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309027487
発売日
2018/12/04
価格
4,840円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ぼくの伯父さん 長谷川四郎物語 福島紀幸著…河出書房新社

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

詩を愛し、創造した

 戦後作家の交遊録を読んでいると、小説、詩、戯曲、子供の本……どの分野にもチラリと長谷川四郎の名が登場する。大陸的な人柄、澄んだ作風が愛され、評価された人のようだ。

 抑留体験から生まれた『シベリヤ物語』や『鶴』、ロシア語を訳した『デルスウ・ウザーラ』が代表作というぐらいは知っているが、一体どんな人だろう? なぜ著作はほとんど残っていないのか? 長年の疑問を抱えて大部の評伝に臨んだ。

 著者は1987年に没した長谷川の晩年に16巻の全集を担当し、間近で過ごした編集者だ。しかし〈推測や想像をまじえずに〉書くため、長谷川の文章、友人の文章に現れた故人の姿だけを引用して貼り合わせ、77年の生涯を編んでいく。それが可能なほどの印刷物、手紙が膨大に残されていたわけでもある。

 父は「函館新聞」主筆で大川周明の畏友。三人の兄も表現者として名を残す。37年「満鉄」に入社した長谷川は、大連図書館などでひたすら本を読んでいたらしい。敗戦まで異国で蓄えた知力と観察眼が、4年半もソ連で苦役を続ける中で醸成され、澄んでいったのかもしれない。

 50年に帰国後、「新日本文学」や「近代文学」で交流の深かった、花田清輝、中野重治、佐々木基一、本多秋五、平野謙らが、長谷川について実(じつ)のある文章を残しているのがわかる。柳田国男、吉田秀和らとのつながりを学生時代から保ったあたりも、故人の幅を広げたのだろう。

 〈推測や想像をまじえずに〉とはいえ、引用の“のりしろ”となる文章は必要であり、著者の批評の閃光(せんこう)が控えめにそこに差している。長谷川にとっては〈記録することが思考すること〉であり、〈詩を愛する心をもって創造活動をつらぬいた〉。

 そして最も良い仕事は、帰国直後の貧困の中で書かれた『無名氏の手記』『阿久正の話』などの小説だと、本書は推しているように思われた。古本を探してでも読んでみたい。

読売新聞
2019年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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