<東北の本棚>幾多の困難希望失わず
[レビュアー] 河北新報
人生は思うようにはいかない。雨の日もあれば風の日もある。時には東日本大震災のような激しい嵐も。著者の半生を基に執筆された「自伝的小説」である本著は、幾多の困難をしなやかに乗り越えて生きる女性像を生き生きと浮かび上がらせる。
主人公は郡山市で生まれ育った幸恵。アナウンサーをしていた地元テレビ局を辞め、40代半ばで中華料理店で出会った14歳年下の中国人男性と国際結婚する。
若き伴侶を得た幸恵は福島市を拠点にさまざまな事業に挑む。最初は結婚式の司会業。有限会社を起こし、スタッフを雇いながら各地の式場でマイクを握る。4年後には旅行会社を設立し、10坪ほどの店舗を構えて地元住民らを中国各地のツアーなどに導いた。経営を安定させるため、労働者派遣業も加えて事業規模を拡大した。
未知の領域に果敢に切り込む幸恵だが、その航路は決して順風満帆ではない。体外受精の失敗、仕事の取引先とのトラブル、恩人や両親の死…。そのたび、幸恵は持ち前の粘りと前向きさで乗り切る。しかし、積み重ねた努力を全て押しつぶすような出来事が待ち受けていた。
2011年、東日本大震災発生。旅行会社の経営は一気に暗転する。東京電力福島第1原発事故で工場に派遣していた中国人労働者もこぞって国へ帰ってしまう。悲嘆と無力感に打ちひしがれながら、幸恵はさらなる可能性を求めて新天地へ旅立つ-。
「どんなにつらい場面に遭遇しても、常に目標を持ち、希望を忘れないで生きるというメッセージを込めた」と著者。未来を信じて道を切り開く姿は、困難に立ち向かう別の誰かへの応援歌でもあるのだ。
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