河野景子さん離婚後初のエッセイ『こころの真実』23年の想いを語る

インタビュー

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こころの真実 23年のすべて

『こころの真実 23年のすべて』

著者
河野景子 [著]
出版社
世界文化社
ISBN
9784418195022
発売日
2019/03/05
価格
1,430円(税込)

河野景子さん離婚後初のエッセイ『こころの真実』23年の想いを語る

[文] 世界文化社

河野景子さん
書籍『こころの真実』を手に、河野景子さん

河野景子さんが離婚後初のエッセイ『こころの真実』(世界文化社)の発売を記念し、インタビューに応じた。昨年10月下旬に元貴乃花親方と離婚してから初めての著書となるこの本は、別れの理由をはじめ、23年にわたり彼女が間近で見てきた相撲の世界のこと、メディアで取り上げられてきた様々なことに対して、初めて彼女の言葉で「真実」を綴った意欲作。執筆にまつわる彼女の心情を聞いてみた。

離婚という人生の大きな節目が執筆のきっかけに

――この本を書き始めたのは?

河野:書き始めたのは離婚が決まって少し後でしたね。

――書いている中で心境の変化はありましたか?

今まで色んなことを乗り越えてきましたが、あまりにも辛いことに直面していると、だんだん「忘れる」ようになっている自分がいました。ですから、書いていますと、一つずつ辛かった時のことが思いだされて……その時の感情がよみがえってきました。

――なぜこのタイミングで本を書かれたのでしょうか?

以前から、長い歳月の中で私が経験したことを、「いつかは本にしたい」と思っていました。なぜかというと、さまざまなことで、事実と違うことを報じられてきましたので、私が見てきた真実をきちんとしたかたちでお伝えしたいという想いはずっと持っていましたので。「本当のことを書きたい」と。今回、離婚という人生の大きな節目を迎えたことが契機となりました。

独身時代を自分の人生の「第一章」、結婚していた23年間を「第二章」とすると、これからの私の人生は「第三章」。新たな扉を開きスタートする上で、これまでを振り返ることは、つらいことでもありますが、先に進むためには大事なことだと思いましたので、執筆を決めました。

――執筆にあたってご家族や貴乃花さんに相談はされましたか?

みんな賛同してくれました。元夫には本を書くことは伝えましたが、内容の相談はしていません。彼は、「どんな内容だ?」とは聞きませんでしたし、むしろ「本の帯にコメントしようか」と言ってくれました。認めてくれたのだと思います。子どもたちにも、内容を伝えたり相談したりということはありませんでした。

書くにあたっては、一度すべてを書いたうえで残す、削除するといった作業をしました。あえて書かない選択をした事柄もあります。「これは自分の心の中に秘めておこう」ということもありますので。

――元のご主人とも良い関係ということですね?

そうですね。彼がテレビで「円満離婚ではない」と発言したことが話題ともなりましたが、誰か代理人のような方を介してしか話ができない状態ではありませんし、率直な話ができるということからも、私は良い関係だと思っていますし、円満な離婚だったと思っています。

河野景子さん
『こころの真実』は私の声なき声

「こころの真実」は私の声なき声

――なぜ、「こころの真実」というタイトルに?

タイトルについては、とても考えました。物事には事実と真実というものがある、私はそう思っています。真実にはストーリーがあります。本当のことを知っているのは、当事者しかいません。その気持ちがずっとありました。この本ではこれまでの23年間の色んな出来事に対して、私が抱いた「私のこころの中にある真実」を書き連ねました。ですから、素直に『こころの真実』というタイトルがよいのではないか、と考えました。

――どんな人に読んでもらいたいですか?

生きていくうえで、「すべてを口にできる人はいない」と私は思っています。口にすることを状況が許さなかったり……。今回、この本で綴ったのはいわば私の「声なき声」です。女性はもちろん男性でも「ここはちょっと堪えなければいけない」とか「これは辛抱して乗り越えよう」とか、生きていくうえでそんな思いをされている方、大勢いらっしゃると思います。そうした方々が、私のこの23年間の『こころの真実』をごらんになった時に、なにか共感していただけることがあるのではないか、と思っています。読みながら、もしかしたら身近な人のことを想うことになるかもしれませんから、男女問わず読んでいただけたら嬉しいです。

相撲を応援してくださっている方々にも読んでいただきたいですね。裏方の人間の一人として、私は23年の間、相撲にかかわってきましたので、「こんな生き方があったんだ」とお楽しみいただければ。

――読んでいただきたいポイントは?

「なにが私をそうさせてきたのか」というものが、この本の端々に出てきます。人間という生きものは独りでは弱いものです。「何かのため」とか「何か支えられて」とか、そうしたモチベーションがあればこそ、人は前に進んでいけるのではないか、と書きながら私は思いました。
自分自身は何に支えられてきたのか、ということを書いている私自身、再確認しましたし、そのあたりも感じていただけたらと思います。

私は元夫の生き方に共感してきました。特に現役時代の生きる姿勢に。自分自身を押し殺してでも支えようと思いましたし。そこに寄り添う家族、子どもたち……部屋を興してからはそこに生きる弟子たち、そうしたものに私は支えを得て生きてきたように思います。
また、23年前の私にはなかった、歳月の中で徐々に育ってきた私の信念そして心情も読みとっていただければ。

離婚の本当の理由

――離婚の本当の理由は何だろう、と思って手にとった方に対しては?

物事に理由って一つじゃないと思います。色んなことの積み重ね……その上に大きな決断がある、と私は思っています。彼の生き方に賛同してきた私ですから、添い遂げるという選択肢もあったでしょう。けれども、自分自身の生き方、自分らしさ、というものをだんだんと考え始めた時に、別な選択肢が自然と生まれてきたのです。人生を100年と考えたら、今、私が立っているところは折り返し点。「これからは自分自身のために生きていいのでは」という覚悟が生まれてきました。それが私の離婚の理由です。そう思わせたのは何か……は、この本を読んでいただければと思います。私の心の葛藤が端々に描かれておりますので。

――体の変化、ということも書かれていましたが

それも自分自身のことを考える大きなきっかけでしたね。「自分はこうあらねば」という気持ちが私は大きかったのですが、大病ではなかったものの体の変調があらわれたとき、その変調は心の声であり、「ちゃんと気がつきなさいよ」というメッセージに私には思え、それがきっかけで離婚を考え始めた、というのも真実です。

――離婚されてから4か月過ぎた今、体調はどうですか?

良くなったように思います。何が、というのはわかりませんが、周りの人たちから「顔が晴れやかになった」と言われるようになりました。就寝する時の精神状態なども、以前よりずいぶん良くなったように思います。

――23年間、別れないで頑張れた理由は何でしょう?

その理由は色々あって……まず、自分の中で離婚するという確固たる覚悟ができなかったことがあります。子どもがまだ小さかったですし、自分の役割を充分に果たしきれている実感がなかったこと。自分では支えていると思っていた元夫の闘いが未だ続いていたこと。そうした状況の下、途中で去っていくというのが良い決断なのか、私自身悩んでいました。

――女将として一番大変だったことは?

師匠と弟子、その絆はとても固いものがあります。女性である私が女将として「どう入るか」それが大変難しかったです。コミュニケーションの取り方に悩みました。気持ちの弱い子のこころを、さらに弱くしてしまうこともありますから。最初のうちはもがき苦しみました。でも、接していくうちに「気負わないでふつうに接すればよいのだ」と気づきました。そして、弟子たちが私に対して本音で話をし心を開いてくれるようになると、喜びへと変わりました。

――部屋から関取が出るのが一番の喜びですか?

確かにそれは大きな夢です。10歳の時から知っている貴景勝が力士として成長し続けている姿を見ることができることは素直に嬉しいです。けれども、それだけではありません。志半ばで相撲を辞めることになった子が、人として成長した姿を見せてくれた時に「なにか自分はその手助けになったのかな」と思えることも、喜びでした。

――女将さんとは呼ばれなくなりましたか?

いえ、未だに女将さんと呼んでくれますね。彼らは「いつまでも僕たちの女将さんです」と言ってくれます。ありがたいですね。その言葉の重みを噛みしめる時もあります。


人生「第三章」は、また新人として色んなことに取り組んでいきたい

フラッシュバックした色んなこと

――これからどんなことを?

今、主にやっていることは講演活動です。今までは相撲部屋の女将として相撲を中心に語っている自分がいたのですが、一個人である河野景子として何が語れるかを考えた時に、「女性の生き方」と「コミュニケーションの取り方」といったことをテーマにお話したいと思っています。けれども、本を書いたことで「人生の選択」についても、悩んでいる方のご参考になるようなことを語れるのではないか、と思い始めました。

――23年経って、また「河野さん」と呼ばれることについては?

なんだか不思議な感じがしますね。未だに私自身、うっかり、花田景子と言ってしまうことがありますから(笑)けれども、元々は河野景子ですから、次第に慣れていく、なじんでいくのだと思います。

――本を書き終えての心境の変化はありますか?

書いている時、フラッシュバックしてきた色んなことを思い出して何度も涙を流しました。書いている最中、そして書き終えた今でも思うことは、過ごしてきた23年間に対して「本当にありがとう」という想いです。
生まれてから就職したのが23年目、結婚して別れて新しい扉を開いたのも23年目。これまで何の思い入れもなかった「23」という数字ですけど、意味を持つようになってしまいましたね。ですから、これからの人生「第三章」は、また新人として色んなことに取り組んでいきたい、そう思っています。

――この本を誰に最初に渡したいですか

子どもたち、それから感謝を込めて元夫…ですね。子どもたちは間近で見ながらも、初めて知ることも多いと思います。「これが真実だったのだ」と。この本は、私の歴史でもあるので、ともに歩んだ人たちに最初に読んでもらいたいと思っています。

世界文化社
2019年3月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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