アメリカの排外主義 浜本隆三著

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アメリカの排外主義

『アメリカの排外主義』

著者
浜本隆三 [著]
出版社
平凡社
ISBN
9784582859027
発売日
2019/01/17
価格
946円(税込)

アメリカの排外主義 浜本隆三著

[レビュアー] 渡辺靖(文化人類学者・アメリカ研究)

◆現代に続く不寛容の系譜探る

 移民や外国人への不寛容な言動が政治空間を覆いつつある。トランプ米大統領が建設にこだわるメキシコとの国境壁はその象徴だ。人口構成の変化、経済格差の拡大、グローバル化、再選戦略など、諸々(もろもろ)の要因が背景にある。

 ただし、こうした不寛容な動きはトランプ時代に始まったわけではない。歴史を忘却してしまっては、直接的な反射神経でしか現在を評価できなくなってしまう。

 その意味で、本書は極めて有益な一冊である。

 十七世紀のセイラムの魔女狩りから十九世紀の白人至上主義結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」、二十世紀のマッカーシズム(赤狩り)に至るまで米社会に繰り返し表出する排外主義の系譜を追いつつ、その背景を探ってゆく。ありそうで、じつは無かった類いの本だ。

 例えば、セイラムの魔女狩り。呪術的な集団ヒステリーというのが通俗的なイメージだろう。しかし、著者はむしろ社会的・政治的対立に起因する「屈折した代替的闘争」と捉える。

 あるいは、KKK。最盛期には数百万人もの会員を擁するまで急拡大した。少なくとも部分的には黒人との共生を掲げ、社会奉仕を奨励する慈善団体としての一面もあったとされる。黒人へのリンチなど凄惨(せいさん)な暴力行為で知られるKKKだが、その内実と軌跡はより複雑だ。

 著者の知見に触れるにつれ、一見、非合理的で情動的な排外主義にもある程度、共通のパターンがあることを再認識する。トランプ氏の掲げる「米国第一主義」に暗く影を落とすオルトライト(新興右派)すらその現代的なバリエーションの一つに過ぎないのかもしれない。

 とはいえ、グローバル化が進む今日、「米国第一主義」は国際政治を大きく揺さぶり、オルトライト的な排外主義は欧州から南米まで世界同時多発的に共振している。

 日本も決して例外ではない。単なる米国批判ではなく、日本社会の耐性を見つめ直す契機としても本書には大きな価値がある。

(平凡社新書・929円)

1979年生まれ。甲南大専任講師。著書『クー・クラックス・クラン』など。

◆もう1冊 

金子夏樹著『リベラルを潰(つぶ)せ-世界を覆う保守ネットワークの正体』(新潮新書)

中日新聞 東京新聞
2019年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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