『クロストーク』
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とにかく長い。長いけれど満足度は超ド級の感動大作
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
コニー・ウィリスの長篇小説はとにかく長い。長いけれど、得られる満足度は超ド級だ。ただ、初めて読む人はとまどうかもしれない。というのもウィリスは、自作のキャラクターに、小説だからといって、読者に向けたような説明的な会話を一切させないのである。しかも、登場人物は多く、出入りが激しい。
最新長篇『クロストーク』も、そう。携帯電話メーカーに勤めている主人公のブリディが出社するなり、同僚たちから「トレントとはどう?」だの「EEDを受けるの?」だの質問をぶつけられて、辟易しながら社内を逃げまどう。そんなヒロインの後を、読者も急ぎ足でついてはいくものの、会話の内容が理解できなくて首をひねりっぱなし。その状況がしばらく続くのだ。
EEDが、恋人同士が感情をダイレクトに伝えられるようになるという、セレブを中心に流行中の簡単な施術であること。ブリディとトレントはEED処置を受けるのを決めていること。でも、大伯母さんをはじめとする、過干渉な親族たちはそれに反対していること。
大勢の登場人物の、リアリスティックであるがゆえにノイジーな声に、ブリディと共にウンザリするかとは思いますが、大丈夫、会社で変人扱いされているC・B・シュウォーツが声に加わる頃には、わたしたち読者の周波数は、ウィリスの語り口に合ってくるはずなのだ。
CBが、ブリディにEED処置をやめさせようと懸命に説得を試みるのは何故なのかという疑問が氷解する3章終わりから、まさに疾風怒濤、巻を措く能(あた)わず。テレパシーをめぐるクロストーク(混線、あるいは当意即妙のやりとり)と、シチュエーションコメディ的な恋愛模様に、魅了されること請け合いだ。最初は我慢。途中は、その我慢に報いる豊かな物語。そして、最後は感動。巧すぎる! 本を閉じた後、思わず声を上げたくなるのが、コニー・ウィリスの長篇小説なのだ。