天皇のあり方について問う シャーマン的な社会小説

レビュー

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箱の中の天皇

『箱の中の天皇』

著者
赤坂 真理 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309027753
発売日
2019/02/14
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「天皇」とは?「日本国民」とは? 現実への批判精神が想像力と結びつく

[レビュアー] 武田将明(東京大学准教授・評論家)

 もうすぐ平成が終わる。明治以降はじめて、日本人は天皇の存命中の退位を経験することになる。しかしその事実と自分がどう向き合うべきか、考えたことはあるだろうか。

 本書の主人公のマリは、謎の老女の導きで敗戦直後にタイムスリップし、占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーを訪ねる。隙を見て部屋にある小箱をすり替え、そこに収められた天皇の魂の一部を奪還する。

 一年後、マリは今上天皇が退位の意向を表明した演説を聴く。その周りにはマッカーサーなどGHQの面々も座している。実際の演説が引用されながら、マリとGHQのあいだで天皇制に関する議論が巻き起こる。そこに先述の老女が召喚され、マリは今上天皇に直接問いかける。

 これがあらすじだが、本書の「魂」はむしろ天皇制をめぐる議論の中身にある。マリは、「日本国民統合の象徴」という、日本国憲法に記された天皇のあり方について問う。象徴は実体を表象するはずだが、果たして実体としての「日本国民」とは何か。戦後の日本人は家や会社などの箱を次々に作ったが、そこに入る中身について考えてきたのか。

 つまり、箱に閉じ込められた天皇の魂とは、本来は日本国民の魂でもあるはずなのだ。しかし本書によれば、象徴を満たす実体について真剣に考えているのは、「全身全霊をもって象徴の務めを果たして」きた今上天皇だけである。ならば、この天皇の退位を契機に、「日本国民」とは何かという問いに一人一人が向き合うべきではないか。

 こうまとめると小説というより論文のように思えるかもしれないが、本書の凄みは、時空を超え、虚実のあいだを縫う想像力と、現実への批評精神が結びついた点にある。シャーマン的な社会小説という点で、石牟礼道子を彷彿とさせる。

 併録された「大津波のあと」は、ポスト平成の「国民」のあり方に迫ったもので、表題作と読み較べることで破壊力を増す怪作である。

新潮社 週刊新潮
2019年3月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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