全篇号泣しっぱなし! 文庫書き下ろしの雄、初の単行本

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

介錯人

『介錯人』

著者
辻堂魁 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912680
発売日
2019/02/20
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

壮絶極まりない凄腕“介錯人”の武士の矜持に貫かれた日々

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

〈風の市兵衛〉シリーズなどで、文庫書き下ろしの雄として知られる辻堂魁(かい)、初の単行本である。

 しかも、その内容は、十八の春、不浄な首斬人としての生業を継いだ別所龍玄を主人公に、凄絶極まりない凄腕“介錯人”の武士の矜持に貫かれた日々を描く本格士道小説である。

 私はいま、“凄絶”ということばを使ったが、これは文字通りの意味であり、収録作四篇のうち、只の一篇たりとも、切腹、あるいは斬首される者の誰一人として、命じられた死罪に理のある者はなく、私は全篇、号泣しっぱなしであった。

 むしろ、彼らをそこに追いやった者たちこそ、身分はあったとしても逆説的不浄の徒である。死の坐につく者たちの無念を知るのは、「本式の役目ではなく、町奉行所の若い同心が務める首打役の《手代わり》で、首を打った罪人の胴を試し斬りにし、刀剣の利鈍を鑑定して謝礼を得る」ことを生業とする龍玄のみ。彼は「切場においては、斬る者と斬られる者がいるのみにて、ほかには誰もおりません。罪と正義ではなく、首打役と罪人でもなく、ただ、斬る者と斬られる者が、一瞬の交わりを結ぶと同時に、永遠の別れを遂げます。わたしはそのように、切場に臨みます」という。

 たとえ龍玄の家庭には、妻子らとの春の陽だまりのような暮らしがあるにせよ、右のような切場を常態とする者の日常を描くことは、作者にとって文字通り、己が生命を削りながら、作品を紡ぐことに他なるまい。この一巻には、正しくそれだけの迫力が見事に刻印されているのだ。

 従って読む方も生半可な気持ちではページを繰ることはできない。が、本書を読み逃すことは、はやくも二月に刊行された今年最も優れた時代小説の収穫を見逃すことになる。おいそれと右から左へ書ける連作でないことは重々承知。だが、是非とも、第二集、第三集を望むのは道理であろう。

新潮社 週刊新潮
2019年3月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加