DJポリスや倍返しも出てくる、魅惑の言葉遊び「歌仙」とは?

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読み手も気軽に楽しめる歌仙という贅沢な言葉遊び

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 歌仙とは「その場のみんなでする遊び」である。ある人が五七五の長句をつくると、別の人がそれに七七の短句をつける。次の人はその七七に、最初のとは別の長句をつける。こうして長句と短句を連鎖させて進めていく。三十六句で「一巻」となるので、和歌の三十六歌仙にちなんで歌仙というが、連句ともいう。

 丸谷才一や大岡信がときどき歌仙を巻いていたのはご存じのとおり。コワイ宗匠(捌き役)は詩人の安東次男(つぐお)だった。あれが見られなくなったのを悲しんでいたが、次の世代がこの遊びを継承していて、見物客としては生き返った気分。

 辻原登・永田和宏・長谷川櫂『歌仙はすごい』は、作家・歌人・俳人が集まって遊んだぜいたくな一冊。でも、読む側が身構える必要はない。句のなかに登場するのは現代人をとりまく現実のあれこれだから、DJポリスもイチローやクロダも登場するし、「ストツキングの脱がせ方」なんて色っぽい文句もある。半沢直樹の「倍返し」まで出てくるのだ。座談会での裏話がまた楽しい。

 かねて「歌仙マージャン説」をとなえるわたしだが、その意味は、マージャンと同様、歌仙も周囲のメンバーの実力や調子をよく見ながら自分の出方を決めるのが大事だということ。俳句の結社はぜひ、レンタル宗匠を始めてくれませんか。プロが捌いてくれれば、サラリーマンのたしなみとしてみんなで楽しめて、「接待歌仙」すら可能になるのでは。妄想かしら。

新潮社 週刊新潮
2019年3月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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