世を観よ 坂井音重著

レビュー

5
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世を観よ

『世を観よ』

著者
坂井音重 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344916685
発売日
2018/11/29
価格
1,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

世を観よ 坂井音重著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 心を静めて、ありのままを深く見通すことを「観じる」という。著者は1939年、観世流シテ方の能楽師の家に生まれ、3歳で初舞台を踏んで以来、世を観じながら生きてきた。本書は、そんな著者が10年にわたり新聞に連載してきた珠玉の随筆である。

 能は、650年の歴史をもつ。著者は言う。「長く続いただけでは何の意味もない。『人間の生命力』が吹きこまれていなければ形骸化し、その外見の様をみるだけでは、人から人へ伝えられていく芸能とはいえない」。

 著者のまなざしは敬虔(けいけん)だ。子供時代のこと、日常のこと、飼い猫の思い出。春の桜の花を見て能の『熊野(ゆや)』を思い、白いアスパラガスの淡泊な味わいに、磨きあげられた能舞台に立つ能楽師を連想する。アメリカやロシア、中国など海外でも能を舞ってきた。2011年の東日本大震災の被災地では、東北ゆかりの能『融(とおる)』を舞った。「能を通して物事を見ると、現代でも気づくことがたくさんあるわけですよ」

 自然と人間を愛する著者のまなざしを通して、無常の世の中が美しく見えてくる。(幻冬舎メディアコンサルティング、1200円)

読売新聞
2019年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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