拗ね者たらん 本田靖春 人と作品 後藤正治著

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拗ね者たらん  本田靖春 人と作品

『拗ね者たらん  本田靖春 人と作品』

著者
後藤 正治 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065140307
発売日
2018/11/29
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

拗ね者たらん 本田靖春 人と作品 後藤正治著

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 四半世紀ほど前、私は講談社の月刊誌で専属記者をしていた。当時、多くの同社編集者が敬意を表してやまなかった書き手がいたのを覚えている。読売新聞社会部出身のノンフィクション作家・本田靖春である。

 本書はそんな本田という人物とその作品を、親交のあった編集者らの交流を軸に、手練(てだ)れのノンフィクション作家が描いた。1933年生まれの本田はノンフィクション界の第一世代で、『誘拐』『私戦』『不当逮捕』などの名作をものしてきた。

 読売社会部時代には、売血を批判する「黄色い血」追放キャンペーンを張り、世に献血を定着させた功績もある。いわばエース記者だった。だが71年、<内部に潜む誘(いざな)い>に応じる形で37歳で退職、独立する。

 本書は著作順にその歩みを追っていく。当初は編集者起案による仕事が多いが、次第に朝鮮半島、戦後など自身のテーマへと広げていく。読み進めると、「取材力と筆力」はもちろん、本人の人柄にも魅力があった様子が浮かんでくる。読売時代の先輩はこう感じていた。

 <本田は一見、“無頼派”と見られがちだが、一面で神経質であり、繊細な気配りをする。底に、人としての優しさがあった>

 そして複眼的に見る視線。吉展ちゃん誘拐殺人事件を扱った『誘拐』では被害者、加害者、捜査陣、世間という視点を余さず捉え、事件の全体像を描いた。そんな視点は、金嬉老事件を扱った『私戦』、エース記者が突然検察に逮捕された『不当逮捕』でも貫かれた。奥行きのある筆致が読者を捕らえて離さなかった。

 だが、本田は健康に恵まれなかった。50代から糖尿病やがんを患い、後年は両足や視力も失って満身創痍(そうい)で亡くなった。それでも本田は死ぬ直前まで書くのをやめなかった。

 ノンフィクションを書きつつ、その行為にやましさや含羞をもち、書き続けることの意義を自分に問い続けた。その問いは後進にも反響し続けているように思えてならない。

 ◇ごとう・まさはる=1946年生まれ。ノンフィクション作家。『リターンマッチ』で大宅壮一ノンフィクション賞。

読売新聞
2019年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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