伝説の“呼び屋”トムス・キャビンの麻田浩と、YMOのマネジメント担当だったピーター・バラカンが日本の音楽の将来について考える

対談・鼎談

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聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事

『聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』

著者
麻田浩 [著]/奥和宏 [著]
出版社
リットーミュージック
ISBN
9784845632633
発売日
2019/01/18
価格
2,420円(税込)

伝説の“呼び屋”トムス・キャビンの麻田浩と、YMOのマネジメント担当だったピーター・バラカンが日本の音楽の将来について考える

[文] 奥和宏(ライター)

これまでにトムス・キャビンが作成してきた公演プログラムを懐かしむ二人
これまでにトムス・キャビンが作成してきた公演プログラムを懐かしむ二人

40年以上にわたって、日本と海外の音楽をつないできた麻田浩さんとピーター・バラカンさん。ピーターさんは近年、自らがオーガナイザーとなって“ライヴ・マジック”という音楽フェスを主催するなど、ますます精力的に活動している。対談の後編では、ライヴ・マジックの裏側、その他の国内外のフェス事情、いま二人が感じている音楽ビジネスの未来について語ってもらった。

 ***

ライヴ・マジックの裏事情

バラカン ライヴ・マジックは、ちょうど中途半端な規模でね。会場のガーデンホールは、スタンディングでギューギュー詰めたとしても千五百人くらいなんです。そのぐらいだと、じゃあギャラはどれくらい出せるかって言ったらね、大物は呼べない。アメリカではそこそこ知られていても日本での知名度がないと難しい。というのは、ライヴ・マジック以外のいくつか単独公演をやらないとアーティスト側がペイしないから。知名度がないとその単独公演を買ってくれる人がいないんです。だからいま、ほんとに難しい。毎回毎回予算を切り詰めてやってます。向こうでもあまり知られてなくて、日本では誰も知らないけど、とてもいい人たちは大勢いるからね。なんとかそれでうまく回して、ちょっとクロが出るときと、2017年みたいに内容は素晴らしいけどアカになったっていう、その繰り返しだからね。麻田さんもそういう経験はたくさんあるでしょ?

麻田 アカになったのはいっぱいだよ(笑)。

バラカン ライヴ・マジックを始めるまでは、僕はもうずーっと観るほうだったんです。どこも呼ばないアーティストでライヴを観たい人はたくさんいるから、どうやったら来日が可能になるかなっていうことは昔からよく考えていたけど。でも自分でそんなことできるわけないし、どこも手を付けないってことは、おそらくそんな簡単にいかないってことだから(笑)、最悪の場合、アメリカに行って聴くしかないなと。だからライヴ・マジックを開催する機会をもらったときにはね、ものになるかどうかはわからないけど、まあとりあえずやってみようとは思った。大変ですけどね。だから、最近になって麻田さんの苦労はよくわかる(笑)。

麻田 僕はライヴ・マジックは素晴らしいと思うよ。いまだにあの規模でああいうアーティストが呼べるっていうのはすごいと思う(笑)。僕なんかできないよ、いま。

バラカン ライヴ・マジックは全部僕が選んだアーティストだから、一組一組全部紹介するんですよ。ライブが終わったあとにお客さんの反応がステージの後ろから見てわかるからね。それでみんなノリノリになってるとね、ああよかったー、じゃあ来年もまたやっぱりやろうってなるんです。

麻田 それがすごいよね。だからやっぱりピーターがやってるからお客さんが来るというのもあるはず。僕が思うにね、「ピーターさんが推薦してくれるんだからいい音楽だろう」という風にみんな思うんだよね。それがすばらしいなと思う。僕にはそういう信用がないよ、まったく(笑)。

バラカン いやいや。お互いに協力しあえればいいよね。さっきも言ったように、ライヴ・マジック単独で人を呼ぶのはなかなか成立しにくいから、麻田さんにツアーを組んでいただいて、それでお互いにいいことになれば……ね。そういえば、デイヴィッド・リンドリーを呼んでほしいっていう人も多いですよね。

麻田 あ、ほんと? やりましょうよ。

バラカン でも、あの人も出不精でしょ?

麻田 いや、そんなことないよ。僕はもう何回もやってるから。

バラカン 最後に来たのはいつだっけ?

麻田 そう言えば、ずいぶんやってないかも。ただね、もう荷物がすっごく多いの。楽器がバーッてたくさんあるからね(笑)。

麻田浩さん
麻田浩さん

世界にはいろいろなフェスがある

バラカン 大手のプロモーターは、もうお金になるものしかやらない。それはもちろんビジネスだから、仕方ないと思うんです。でもやっぱりね、大きなビジネスにはならないけれど、トントンになればいいような良い音楽をやる者がいてもいいんじゃないか、って。

麻田 そういう意味では、アメリカにはほんとにいろんなフェスがあるじゃないですか。僕、マール・フェスも行ったことあるし、あとはサンフランシスコでやってるハードリー・ストリクトリー・ブルーグラス(編注:3日間にわたって行なわれる大規模なミュージック・フェスティバル。ブルーグラス、ブルース、ロック、カントリー、ディキシーランド、ザディコなど、さまざまなジャンルのアーティストが百組以上も登場する)も行ったことがあるよ。

バラカン あのフェスは無料だよね。

麻田 そう、タダなの。あれはITで大金持ちになった人が始めたフェス。本人はバンジョー弾きだったみたい。ヘタなバンジョーなんだけど(笑)。

バラカン でも死んじゃった後も続いてるよね。

麻田 彼がね、死ぬときにあと十年はできるように算段してくれてたみたい。だから、そのお金で運用してるんじゃないかな。

バラカン 僕もあれは一度行きたいな。9月だっけ?

麻田 10月の頭かな。あれはすごい、ほんとに。あそこの面白いところはね、ボズ・スキャッグスは最初に出たときに、バディ・ミラーをバックにつけてカントリーをやったんです。「僕、テキサスに生まれて、小さい頃からこういう歌を聴いて育ったんだよ」って言ってカントリーをやった(笑)。そこで初めて彼のカントリーを聴きましたよ。

バラカン あの人は、デビュー・アルバムでジミー・ロジャーズの曲を取り上げたりしてるよね?

麻田 うん、そうそう。あそこの面白いところは、そういうことがけっこうあるからね。
バラカン 日本でもサンフランシスコと同じようなITの大富豪、孫(正義)さんみたいな人がやれば、十分できるよね(笑)。

麻田 形態は違うけど、フジロックは、僕はすごくいいと思ってますよ。たとえばボブ・ディランまで来たじゃないですか。たぶんあそこに来てる若い人で、ディランをちゃんと聴いた人なんて、誰もいないって言ってもいいくらいじゃないかなと思うのね。

バラカン でもフジロックに来る若い人は最近少なくなったかもしれない。けっこう平均年齢が上がってきてるから。だからこそディランなんじゃないのかな?

麻田 なるほど。でも一昨年はすごく若い人も多かったよ。小沢健二やコーネリアスが出たときとか。だから、若い人多いなぁと思ったんだけど、まあ、僕が若いと思っても、若い人から見たらそこそこいい歳なのかもしれない(笑)。あとは、昔あそこにマーク・リボーと偽キューバ人も出してもらったし。去年もセラミック・ドッグが出たし……。

バラカン マーク・リボーと偽キューバ人がフジロックの翌日に渋谷クラブクアトロでやった時に行ったんだけど、もうとんでもないことになってたよね(笑)。たぶんフジロックの話題が、SNSとかで広まったんだろうね。前売りがそんなによくなかったみたいなのに、当日になって、うわーっと倍くらい売れたっていう。そんな勢いだったから、もう会場でも動けないんですよ。最後までいたらちょっと苦痛かなって思うくらいのぎゅーぎゅー詰めだった。

麻田 あの時は、あれでも百人近く返したんですよ、もう入り切れなくて。

バラカン あの日はすごかったね、ほんとに(笑)。これまでのトムス・キャビンの中でも、そういう意味では一番忘れられないかも(笑)。

麻田 フジロックで大勢の人たちがマーク・リボーを観たことで、「こりゃすごい」ってなって、たぶん電話でみんな友達に「明日クアトロあるみたいだから行こうよ!」って言ったんじゃないのかな? そういう口コミはある意味で理想的ですよ。

撮影:TAK岡見

リットーミュージック
2019年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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