怒っている人はまず受け入れる。人の信頼を得る話の聞き方

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1分で信頼を引き寄せる「魔法の聞き方」

『1分で信頼を引き寄せる「魔法の聞き方」』

著者
渡辺直樹 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784023317628
発売日
2019/02/20
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

怒っている人はまず受け入れる。人の信頼を得る話の聞き方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

1分で信頼を引き寄せる「魔法の聞き方」』(渡辺直樹著、朝日新聞出版)の著者は、20年以上にわたり、大手通信会社のコールセンター業務を通じて人の話を聞き続けてきたという心理カウンセラー。

そうした経験を積み上げていく過程においては、聞き手の「聞き方」の違いによって、会話の流れや話し手の状態が大きく変化することを実感したのだそうです。

それを「魔法の聞き方」という言葉に置き換えているわけですが、つまり、うまい聞き方をすることができれば、まるで魔法を使っているかのような効果を引き出せるということです。

現代は、「話を聞いてくれる人がいない」「誰にもわかってもらえない」という悩みを抱えている人が多いと言われます。

誰もが「自分の思いを伝えたい」「自分を表現したい」という気持ちを持っています。(中略) 人の話にしっかり耳を傾けて聞くことは、そうした人がもともと持っている欲求に応えることになります。

さらには、その人を受け入れる、その人の存在にOKを出すことにもなるため、その結果として相手はこちらを信頼し、心を開いてくれるのです。(「序章 魔法の聞き方」より)

相手から安心、信頼を得られやすい話の聞き方ができれば、会話がスムーズに進むだけでなく、同僚や上司、友人、パートナー、家族などとの身近な人間関係にもよい影響が現れるということ。

聞く力をつければ、まわりに人が集まってくるようになるわけです。

そこで本書において著者は、豊富な経験に基づいた「聞き方」のスキルを明らかにしているのです。

また、自身が学んできた心理学や心理カウンセリングの知識や技術をも用い、さまざまな「実戦できるテクニック」も盛り込んでいるのだとか。

きょうは第3章「ストレスフリーに聞く技術」のなかから、多くの方にとっての悩みであるに違いない「怒っている人の話を聞く」に焦点を当ててみたいと思います。

まず怒りの炎を十分に吐き出させる

怒りをぶつけてくる人の話を聞くことは、とても難しく厄介なもの。誰にとっても嫌なものではないでしょうか。

ところで、怒りが頂点に達している人、感情的な言葉が止まらない人に、絶対にしてはいけないのは「言い訳」をすることだと著者は言います。

なぜなら言い訳をすると、相手は「責任逃れしている」と受け取ったり、「自分が気分を害したことに対する謝罪はないのか」などと思うものだから。

そして、「自分の話を遮られた」という不満から、怒りがさらに大きくなるというのです。

怒っている人の話を聞く場合、大切なのは「共感」と「うなずき・相づち・繰り返し」。しっかりとしたうなずきと相づちを行い、話のポイントを繰り返しながら、こちらが相手の話を理解しているのだということをわかってもらうわけです。

そして相手が話しているうちは、余計な言葉がけや質問をしないように気をつけ、気持ちの「主訴」に対して謝罪することが大切。

なお怒っている人に対しては、「ゆっくり、低い声」でうなずきや相づちを行うことが重要なポイントだといいます。

怒りの気持ちをぶつけてくる人というのは、怒りをどうにかしたい、この怒りをわかってほしい、と思っています。

聞く方ももちろん苦しいのですが、話す本人が一番苦しんでいます。

人の怒りの気持ちの奥には、話を聞いてもらえないこと、自分がないがしろにされたことへの悲しみや失望、焦燥、不安、恐怖など様々な思いが混交しているため、その苦しみから無意識に自分を守ろうとして、つい相手を攻撃してしまうのです。(153ページより)

そのような人に対して反発モードになって反論すると、「話を聞いてもらえない」と思われ、さらにヒートアップしてしまうということです。

だからこそ、その人の怒りの気持ちに「共感」を示すことが大きな意味を持つのです。(151ページより)

「ねえ、聞いてるの?」と言われたら

怒っている人はしばしば、相手に対して「おい、聞いているのか?」「ねえ、聞いてるの?」というような言葉を発するもの。

しかし、そんなとき「聞いているよ」と答えてもあまり意味がないと著者は言います。なぜなら話し手の「聞いているのか?」は、単なる質問ではないから。

そこには、「あなたは聞いていない」と主張する気持ちが込められているということです。つまり「聞いているよ」という返答では、相手はその判断を改めることができないわけです。

怒っている人には、「そのとき話を聞いてもらえなかった」「いま話を聞いてもらえていない」「わかってほしい」というような気持ちがあるもの。

そこで、「おい、聞いているのか?」に対しては、「○○ということだよね。もちろん聞いているよ」と、相手の話を要約して伝え返すことが有効。

なぜならそうすれば、相手には「気持ちをわかってもらえた」という感覚を持ってもらえるからです。

仕事でクレームを受けた場合であれば、相手の主張を正しく理解することに徹するべき。

たとえば「聞いているのか?」と言われたときに、いちばんよくないのは「はい、聞いております」「聞いておりますので、こちらの話も聞いてください」などと返すこと。

相手が話しているうちは、

1. しっかりとしたうなずき、相づち

2. 事実関係のポイントの繰り返し

3. クレームを入れたくなる気持ちの表現の繰り返し

(155ページより)

これら3つの態度を心がけ、余計な言葉がけや質問をしないように気をつけ、気持ちの主訴に対して謝罪するようにすべきだというのです。

相手:コラ、聞いてるのか!

聞き手:はい。○○で、○○されたということですね。そうでしたか、大変申し訳ありません。(156ページより)

というように。(154ページより)

相手が理不尽なことを言っていると思えるとき

相手が怒っているとき、「どう考えても自分は悪くない」「悪いのは怒っている相手のほうだ」という思いを抱きたくなることはあるものです。

しかし、いくらそれを論理的に伝えたところで、相手の怒りが収まるとは限りません

「自分は悪くない」という思いは、相手の主張への反発心を生み、共感モードで聞くことを難しくしてしまうことになるからです。

たとえばAさんが、パートナーであるBさんから頼まれた用事を果たすことができず、そのことで責められたとします。

Bさんは、ある期限までにAさんの勤め先から書類を取ってきてもらうようお願いしていました。Aさんはすぐに手続きをしましたが、どうしても期限に間に合いませんでした。

それに対して、Bさんは怒ってAさんを非難します。

その場合、もしできる限りのことをしたにもかかわらず責められているのだとしたら、Aさんとしては納得できない思いが残っても当然です。

しかしそんなときは、「うなずき」「相づち」「繰り返し」を使った会話に戻し、相手に反応するようにすべき。

もちろん、「そんなに大事なことなら、早く言ってくれよ」と感じても無理はありません。しかし、そんな言い訳をしたところで相手の怒りは治らないのです。

それどころか、状況が余計ひどくなる可能性も。相手は、理路整然と説明されたら納得するというわけではないからです。

また、自分に非があろうがなかろうが関係ないのだとも著者は言います。とにかく相手は、間に合わなかったこと、ただその一点に感情的になっているからです。

だとすれば、納得できなかったとしても、それを受け入れることが大切だということです。(156ページより)

初めから自分は聞いていたか?

できることは、自分の考え方をコントロールすることのみ。そこで著者はここで、自分の心のなかに生じる「雑音(ノイズ)」を取り除くことを勧めています。

冷静になって考えます。そもそもはじめにBさんから、会社の書類を取ってくるようにお願いされたとき、Aさん自身はどんな様子だったでしょうか?

何日までにほしいという、あまりに差し迫った(ように思われた)期限を言われて、Aさんの心に以下のような雑音が生じて、相手の話を聞けていなかったのではないでしょうか。

(またギリギリになってこういうのを頼んでくるんだから)

(こいつはいつもこうだ。何でも物事を先延ばしにする)

(いまから間に合うわけがない)

(158~159ページより)

こうした心の声は、部分的にはそのとおりなのかもしれません。

しかし、Bさんが「なんでも物事を先延ばしにする」というところはAさんの想像にすぎません。「きっと間に合わない」というのも、Aさんの決めつけです。

つまり、そのような雑音が多すぎると、はじめから会社に事情を説明して急いで手続きしてもらおうという気すらなくなってしまうものだということ。(158ページより)

心の雑音が消えたとき、相手の気持ちが聞こえはじめる

Aさんが心の雑音をなくすことができていれば、Bさんからお願いされたときに話をきちんと聞き、スムーズなコミュニケーションを実現できたはず。

A:ああ、あまり時間がないようだね

B:そうなの。私も急いだんだけど、間に合わなくて

A:そうか。うちはすべて本社に申請するから時間がかかるよ

B:そうだよね。時間がかかるよね

A:とりあえずこちらも急いでみるよ

B:ありがとう

(160ページより)

こんなふうに相手の気持ちが少しでも聞こえはじめたなら、自分の対応も、2人のやりとりも、なにより2人の関係が、お互いに信頼できるものに変わっていくはずだということです。(159ページより)

本書にまとめられた方法論やコツを身につければ、誰もが人の話を上手に聞けるようになると著者は記しています。

話し手も聴き手もより楽に話を聞けるようになり、お互いを傷つけることなく円滑なコミュニケーションがとれ、より深いところで理解し合えるようになるというのです。

人の話を聞くことに苦手意識をお持ちの方にとっては、参考にする価値がありそうです。

Photo: 印南敦史

Source: Amazon

メディアジーン lifehacker
2019年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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