[本の森 恋愛・青春]『テレビ探偵』小路幸也/『木曜日の子ども』重松清

レビュー

3
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テレビ探偵

『テレビ探偵』

著者
小路 幸也 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041074107
発売日
2018/12/25
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

木曜日の子ども

『木曜日の子ども』

著者
重松 清 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041028322
発売日
2019/01/31
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 恋愛・青春]『テレビ探偵』小路幸也/『木曜日の子ども』重松清

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員・丸善丸の内本店勤務)

 読んでいると、愉快な記憶がよみがえってくる。小路幸也氏の『テレビ探偵』(KADOKAWA)は、昭和のテレビ業界を舞台にした連作ミステリである。主人公は、5人組のバンド「ザ・トレインズ」に憧れボーヤ(付き人)になった青年・チャコ。コントもできる「ザ・トレインズ」は、お笑い番組のメインを務めることになった。放送は土曜の8時、日本中の子どもたちが夢中に……、と言われれば、思い浮かぶのはあのザ・ドリフターズである。あくまでモデルなのだけれど、登場人物たちが自然とあの人たちの姿に重なる。テレビの前で8時を待っていた時のワクワク感と懐かしいコント映像が思い出され、そのまま同じキャストで躍動感あふれるドラマが始まる。

 小回りがきいて気遣いもできるチャコは、メンバーはもちろんのこと、共演者やマネージャーにも頼られ、愛されている。放送中に怪しい落下事故が起き、メンバーが行方不明になり……というと、暗い事件の予感がするが、大きな悪意に人が巻き込まれることはない。チャコの機転と粋な大人たちの優しさ、そして昭和のテレビ界の寛容な空気が、窮地に陥った人たちに救いの手を差し伸べる。誰かが誰かを思いやる気持ちや心に秘めた思いに、温かい感情や切なさがこみあげた。今後、日本中の人気者になるはずのチャコの活躍を、もっと読みたい。

 読んでいる間、緊張が解(ほぐ)れる間が一瞬もなかった。重松清氏の『木曜日の子ども』(KADOKAWA)の主人公は、14歳の男の子を持つシングルマザーと結婚した男。いじめにあい心に傷を負った義理の息子・晴彦のために、ある町に新居をかまえることになった。その町は、過去に事件が起こったことで知られていた。中学生の少年が給食に毒物を入れ、同級生を無差別に殺害したのだ。7年経ち、町も学校も明るさを取り戻したはずだったのに、事件の犯人・上田に晴彦が似ているという噂がたってしまう。

 心を見せない晴彦と再び町に漂い始めた不穏な空気、そしてカリスマ化しはじめた上田の気配に、男は翻弄される。センセーショナルで衝撃的な展開に背筋が寒くなるが、現実の事件や現代を取り巻く空気とリンクさせずにはいられず、登場人物たちの苦しみが胸に迫る。最後まで読んだ時に見える景色は、人それぞれなのかもしれない。

 小池昌代氏の『影を歩く』(方丈社)は、混雑した電車や騒がしいカフェの中にいても、小さな部屋に閉じこもっているかのような静寂をつくりあげる掌篇集。主人公たちは、家族と暮らしていても、恋人がいても、それぞれに孤独だ。孤独は、彼女たちを蝕むものではなく、ひっそりと寄り添うように存在している。彼女たちの物語は、ふと気がつくと私の物語になり、短い夢を立て続けに見たような気持ちになる。読み終わっても、ずいぶん長い間静けさの中にいた。

新潮社 小説新潮
2019年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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