<東北の本棚>もう一つの主役に迫る

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庄内藩の戊辰戦争

『庄内藩の戊辰戦争』

著者
阿部久書店 [著]/阿部博行 [イラスト]
出版社
荘内日報
ISBN
9784991036002
発売日
2018/12/31
価格
3,080円(税込)

<東北の本棚>もう一つの主役に迫る

[レビュアー] 河北新報

 戊辰戦争は白虎隊の悲劇などで知られる会津藩がクローズアップされがち。同様に新政府から朝敵と名指しされ、苛烈な運命をたどった「もう一つの主役」である庄内藩の実情はそこまで知られていない。本書は幕末の同藩がいや応なく戦火に巻き込まれ、明治維新後に復興を果たすまでの経緯を通読できる一冊だ。
 鶴岡市史編纂(へんさん)委員の著者が、庄内藩の残した記録だけでなく、同藩が進攻した秋田南部の自治体史や戦闘を交えた西日本諸藩の文献も調べて自費出版した。現地に赴いて地理を確認し、史跡の写真も多く掲載。余計な主観を省き、史実を並べる記述に努める姿勢が小気味いい。
 庄内藩が朝敵とされた理由は、同藩が江戸で薩摩藩邸を焼き打ちしたことへの意趣返しというのが通説だ。加えて本書は、現在の寒河江市柴橋にあった旧幕領7万4000石を巡る新政府との領地紛争が大きな要因だったとする近年の研究者の見解を紹介するなど、新しい知見を積極的に取り入れている。この紛争を契機に新政府寄りだった天童藩との関係が一気に悪化した内幕も記す。
 各地の実戦の記述も詳細。近代装備で連戦連勝し「幕末最強」の呼び声もある庄内藩だが、終盤は戦闘が膠着(こうちゃく)状態に陥り、余力がほとんど残っていなかったことが分かる。
 奥羽越列藩同盟として共闘した仙台藩、一関藩などにも触れている。他藩の目から見ると、仙台軍は粗暴な振る舞いが多く、進攻した秋田南部の住民から良い評価を受けたとは言えないらしい。そうした自藩の記録によらない「外部の視点」を知るためにも、庄内地方以外の人が本書を読む意味はありそうだ。
 著者は1948年鶴岡市生まれ。山形県立高で日本史を主に社会科教師を務め、2011年に退職した。
 鶴岡市の阿部久書店=0235(22)0220=など山形県内の書店で主に扱っている。3024円。

河北新報
2019年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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