肉声 宮崎勤30年目の取調室…安永英樹著 文芸春秋/フーコーの言説…慎改康之著 筑摩選書

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肉声 宮﨑勤 30年目の取調室

『肉声 宮﨑勤 30年目の取調室』

著者
安永 英樹 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163908687
発売日
2019/01/25
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

フーコーの言説

『フーコーの言説』

著者
慎改 康之 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784480016744
発売日
2019/01/15
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

肉声 宮崎勤30年目の取調室…安永英樹著 文芸春秋/フーコーの言説…慎改康之著 筑摩選書

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 自分自身であることは、言葉に支えられる。このテーマを深く考えさせてくれる2冊だ。

 『肉声』は、平成への代替わりの時期に東京と埼玉で幼い女の子4人が犠牲となった、連続幼女誘拐殺人事件を掘り起こす。宮崎勤元死刑囚への、逮捕直後の警視庁での取り調べ録音テープを特報したフジテレビ番組を基にする。

 これまで、精神鑑定書や裁判での様子は詳細に報じられている。精神障害か詐病か。幼女を殺害し、その遺骨を遺族に送りつけた理由は、「狂気」なのか。本書が伝える宮崎の肉声は、罪の意識や両親への嫌悪、さらに「今田勇子」と名乗った動機にいたるまで、赤裸々に語る。彼の言葉は、その「実像」を明らかにするのか。彼自身は、一貫したひとりの人間なのか。

 この、自己同一性に関する、フランスの哲学者ミシェル・フーコーの言葉を、慎改康之は、丁寧かつ明快に描く。『フーコーの言説』は、1950年代から80年代まで、この哲学者が常に変わり続けながら、同時に一貫した関心を保ってきた道筋をたどる。自分自身からの離脱、そして、主体と真理の関係の問い直し、という二つの問いが彼の思考を特徴づけている。

 60年代における、狂気や臨床医学の分析を通じ、フーコー自身が、50年代の自らの言葉からの解放を試みる。70年代には、監獄や性についての考察から、自分自身の発見ではなく、その拒絶こそ、権力に抵抗する手段だと述べる。そして80年代に、「思考の思考自身に対する批判作業」が、哲学の任務だとする立場へと行き着く。

 フーコーが厳しく戒めていたように、その言葉を通して現在の問題=宮崎勤を理解することはできない。しかし、両者は、言葉によって、自分自身から離れようとしていたのではないか。自分であることと言葉は、どう関係するのか。言葉は、時に自分を裏切る。哲学者と犯罪者は、自己同一性をめぐる問いを、全く異なる仕方で、読者に突きつける。

読売新聞
2019年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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