波(WAVE)…ソナーリ・デラニヤガラ著 新潮クレスト・ブックス

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波

『波』

著者
ソナーリ・デラニヤガラ [著]/佐藤澄子 [訳]
出版社
新潮社
ISBN
9784105901561
発売日
2019/01/31
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

波(WAVE)…ソナーリ・デラニヤガラ著 新潮クレスト・ブックス

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

「たいへん、海が入ってくる」

 数分後、ホテルからジープに乗って逃げた著者は波に呑(の)み込まれた。茶色い水の中を転がるうち、2人の幼い息子と夫の姿は消えた。気づくと、著者は陸地にいた。口に砂が入り、血を吐いた。そして独り生き残ったことを知った。

「何かが私たちを襲った。(中略)彼らなしでは生きられない。生きられない。できない」

 2004年12月に起きたスマトラ島沖地震。本書はスリランカで津波に遭遇し、家族を全員失った女性が、その日からの8年間を綴(つづ)った。

 スリランカに生まれ、英大学に進学。英国で結婚し、経済学者として暮らしていた著者はクリスマス休暇で母国に戻っていたところで津波に遭った。もとより本書はトラウマ体験を緩和させようと自分のために書き出したもの。それだけに日記のようなむきだしの表現も多い。

 被災からしばらくの間、著者は子どもたちや夫がいなくなった現実を受け入れない。その一方で、「私は破滅する運命だったんだ」と諦念を抱きもする。町では何事もなかった地域に悪態をつき、家では自傷行為に走る。

 以前暮らしていたロンドンを思えば家族の不在に恐怖を感じ、日曜が来れば津波の日のことや、子どもたちとの楽しかった日常を同時に思い出す。幸せだった過去と目の前の現実とあったはずの未来。思いは頻繁に行き来しては悲嘆に暮れる。それは心理的に過酷な日々だ。

 そうして日々を重ねるうち、5年が過ぎたところで変化が生まれる。「私は思い出したい。知りたい」。8年近くになる頃にはこう記す。

「私は、彼らを近くに置いておくことでしか回復できないということを学んだ」

 津波で愛する家族を喪(うしな)う。そんな体験をもった人がどんな日々を過ごしてきたか、本書の読者は痛みをもって気づくだろう。そして、日本の8年前のあの日を生き抜いた人たちに思いを馳(は)せることにもなるはずだ。佐藤澄子訳。

読売新聞
2019年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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