止められない感染力!終始、不穏

レビュー

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あなたもスマホに殺される

『あなたもスマホに殺される』

著者
志駕, 晃, 1963-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041077696
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

止められない感染力!終始、不穏――【書評】『あなたもスマホに殺される』ベル

[レビュアー] ベル(文学YouTuber)

“僕はどうしたらいいでしょうか?

◯先生に相談する ◯友達に相談する ◯親に相談する ◯自殺する”

 自身のスマホ画面に、いきなりこの文字列が現れたら驚くだろう。選択肢のテキストリンクをタップするか否かは措くとしても、気になって仕方がない!

 誰もが持っているであろう“人間の闇の興味”に刺激を与え続ける小説が、志駕晃の最新刊『あなたもスマホに殺される』ではないだろうか。映画でも大ヒットを記録した「スマホを落としただけなのに」シリーズの著者が、得意の“スマホ”を舞台に繰り広げる、SNSミステリーだ。

 主人公は、冴えない中学校教師鈴木。はじめは“自殺相談室”というSNSで悩み相談を受けることにはまっているだけだった。しかし、この“自殺相談室”が強大な力を持つようになり、隠したい過去、リアルな居場所である家族や学校にまで影響を与え始め……果たして黒幕は? といった内容だ。

 本作は、一時期大量発生していた漫画広告を想起させる。俗っぽいウェブニュース記事を興味本位で覗いた時について回る、特にセンセーショナルなシーンを切り取ったあれだ。 いじめ、同性愛、不倫、借金、ギャンブル……本作は気を引く相談ネタをこれでもかと詰め込んで、怖いもの見たさの欲求をダイレクトに刺激する。センシティブな題材を偏った視点でモノのように扱う様は、不快感のオンパレードだ。SNS内は洗脳による宗教的様相を見せ、サイコパスもご登場。私がこのテンションで「みんなの自殺相談に乗ります!」なんてYouTubeに動画を出したなら、再生数こそとれるが炎上ものだろう。だからこそ、「どのプラットフォームも健全性を向上し過ぎてつまらない」とフラストレーションを抱えている一部の人にとっては、ストレスのはけ口として、ある種の快感を味わわせる機能を果たしているかもしれない。平易な文章で飽きさせない点は、普段読書に関心のない者も“読む自殺ゲーム”といった感覚で楽しめるのではないだろうか。娯楽としてぴったりだ。

“違う世界線の物語”として割り切って読む姿勢も、本作を楽しむためのコツになってくる。現代設定に似合わないPCメールの携帯転送サービスが登場し、時代錯誤な教育姿勢が見え隠れするためだ。“SNSミステリー”と聞いただけでは、若者向けのイメージなどを浮かべるが、年配の保守的な男性にもウケる内容ではないだろうか。まず、“自殺相談室”自体、若者に親しみのあるいわゆるSNSかと問われれば難しく、「実際にありそうで怖い」というリアルに乏しい。さらに、物語の軸にあたるものが昭和の“体罰問題”だ。言うまでもなく私にはピンとこない。つまり、未だネットやSNSへの偏見がぬぐいきれない大人たちへ「やっぱりSNSではろくなことが起きない。自分の時代が一番」と共感を誘っているように映るのだ。あるいは、一昔前の“学校裏サイト”が流行った頃にアングラ系の掲示板が好きだった人であれば、ネットに怯えていたあの頃を懐かしむことができるはずである。また、描かれる女性は主人公によるイメージで語られる向きが強い。

 このように、読んでいく過程で自分の心のざわつきを確認し、逐一人に話したくなるという点では、ストーリー中の“自殺相談室”のごとく感染力が強い作品だ。刺激欲しさにのめり込むところも然り。また、サスペンスを保つ劇的な展開は、『スマホを落としただけなのに』同様、映像化しても映えるだろう。

 では、ミステリーとしてはどうかというと、謎解きに慣れているものであれば、いくつかの仕掛けをやすやすと暴くことができるかもしれない。しかし、少し気を抜いている隙に、最後の一文にあっと驚かされることになる。私はこの罠をすぐには理解できず、思わず何十ページも遡ってしまった。

 毒を毒で洗いたい夜に、パワーワードのシャワーを浴びてみてはいかが?

KADOKAWA 本の旅人
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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