心に染み入るほど美しい被災地で探り当てた言葉
[レビュアー] 大竹昭子(作家)
二〇一一年三月十一日に津波の報道に驚いた東京の美大生が、被災した東北沿岸を旅して町が丸ごと消えた陸前高田に惹かれて移り住む。一年の予定が三年に延び、仙台に移った今も月に一、二度訪ねて人々に話を聞き、絵を描くのを続けている。本書はそのつど書き留めた短い言葉とエッセイ、絵、スケッチ、写真で構成される。
東京でのほほんと(!)絵を描いていた学生が縁もゆかりもなかった場所で地域社会と関わりを持ち、人生の導師たちに出会ったことにまず驚く。大震災がなければ起きなかった人生の大転換だが、そこで震災後の時間を過ごすうちに思考も深度を増していく。記憶と忘却、生活と芸術、災害と人間、自然環境、まちおこしなど、彼女が考えを及ばせる事柄はどれもつながっていて切り分けができない。芸術とは本来そのようにジャンルを踏み越えていく営みなのだと気づかされる。
どれも自分の身が探り当てた言葉であり、書物の引用はない。代わりに人々の語った言葉が記されるが、それが心に染み入るほど美しい。悲惨な体験をした人が「詩人」になるというのは、人間が通らざるを得ない根源的な道筋なのだろうか。
すべてが消えた土地を前にして、美しいという感情が湧いたことに彼女は戸惑う。町の人も同様だ。不可解な反応だが、美しいと感じる心は現実を受けとめようとする隠された意志の発動なのかもしれない。
更地に人々は花を植えて亡き人を弔ったが、嵩上げ工事により花畑は埋められ、いまそこに新しい町が建設されつつある。あまりにも事が速く進んで心身がついていかない。だが、人間の歴史はそういう齟齬の繰り返しだったと気づくと、「大切な何かを受け取ったら語らずにはおれない人間という生きもの」を自覚する。古代人が物語の衝動に目覚めたときのように、彼女はいま自分の足でその入口に立ったのだ。