『ノッキンオン・ロックドドア』
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不可能と不可解が凝縮された魅力的なバディの推理合戦
[レビュアー] 若林踏(書評家)
これぞ設定の勝利、というべきバディ小説の登場だ。青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』は一風変わった探偵コンビを描いた連作短編集である。
御殿場倒理(ごてんばとうり)と方無氷雨(かたなしひさめ)は探偵事務所の共同経営者である。こう聞くとホームズとワトソンのような探偵と助手の関係を思い浮かべるだろうが、さにあらず。倒理は完全犯罪がどのように行われたのかを解く“不可能専門”、氷雨はなぜそのような状況が生まれたのかを解く“不可解専門”と、得意分野が違う探偵同士なのだ。
表題作では密室状態のアトリエで画家が殺され、現場に何故か真っ赤に塗り潰された画布が残された事件に挑む。本書には、「どのように」と「なぜ」、二つの異なる謎が一編に凝縮された、お得感に溢れる短編が揃っている。
倒理と氷雨による推理合戦も見どころの一つ。その最たる例が「髪の短くなった死体」だろう。本編ではそもそも事件が「どのように」と「なぜ」、どちらのタイプに属する謎なのかを巡って、シーソーゲームのように仮説が二転三転する。人物設定の奇抜さから、謎と推理のバリエーションをここまで広げることができるのか、と驚くばかり。
倒理と氷雨に限らず、ミステリでは古今東西、魅力的なバディがいる。例えばレックス・スタウト『料理長が多すぎる』(ハヤカワ・ミステリ文庫、平井イサク訳)に登場する探偵ネロ・ウルフと助手アーチー・グッドウィン。巨漢で美食家の暴君ウルフに対し、好男子アーチーは時に喧嘩をしながらも手足となって大活躍する。〈ウルフ&アーチー〉シリーズは探偵にもの申すワトソン役を描いた作品なのだ。
人種や国家の垣根を越えたバディもの、といえばユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 檻の中の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫、吉田奈保子訳)。デンマーク警察の一匹狼カール警部補と、謎めいたシリア人アシスタントのアサドが未解決事件を追う内に、強い信頼関係で結ばれていく。複雑で多様化した世界をいかに生きるべきか、そのヒントを与えてくれる小説だ。