予測マシンの世紀…アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、 アヴィ・ゴールドファーブ著 早川書房

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

予測マシンの世紀

『予測マシンの世紀』

著者
アジェイ・アグラワル [著]/ジョシュア・ガンズ [著]/アヴィ・ゴールドファーブ [著]/小坂 恵理 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784152098375
発売日
2019/02/06
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

予測マシンの世紀…アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、 アヴィ・ゴールドファーブ著 早川書房 1700円     

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 人類は、電車や自動車の登場により、短時間で長距離を移動できるようになった。技術の発展が、人間の足を進化させたかのようにだ。だが電車も自動車も、足そのものではない。たとえばそれらはサッカーボールを蹴れない。あくまで上手(うま)く「移動」の機能を果たす機械である。

 同様に、人工知能も、知能そのものではない。たとえばそれは質問者の意図を汲(く)み取らない。ただし質問文を構成する言葉から、回答にあたるものを予測できる。それは上手く「予測」の機能を果たす機械なのだ。近年の精度の高まりは著しい。カードの不正利用の検出や、病名の診断などは、人工知能の得意分野だ。保釈された被告が逃亡するかは、人工知能のほうが、人間の裁判官よりはるかに正確に予測できるという。

 著者らは予測の精度の変化が、いかなる経済変化をもたらすかを論じる。たとえばアマゾンの人工知能が予測する「おすすめ商品」の表示。現在はユーザーがその商品を購入すると、アマゾンは発送を始める。しかし、もし将来、予測の精度が高まると、ユーザーが購入を決める前に、アマゾンは発送を始められる。冗談のような話だが、同社は2013年に、この「予測発送」の特許を米国で取得している。

 もちろん予測は外れうる。「予測発送」が外れたら、アマゾンは商品をユーザーから回収せねばならない。このとき同社は回収作業を行う流通業者を、自ら抱えたくなるだろう。すると産業の統合が起こる。予測の精度の変化は、産業構造の変化をもたらすわけだ。

 予測の精度の変化が、自分の事業にどのような変化を与えるのか。この、過去の参考データがない問いに、人工知能は答えられない。だからここで人間は「SFばりの思考実験」に挑まねばならない。その作業は容易(たやす)いものではないが、人間の知能こそが必要とされるものだ。そのための情報と思考の仕方とを、本書は冷静に教えてくれる。小坂恵理訳。

読売新聞
2019年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加