十八世紀京都画壇 蕭白(しょうはく)、若冲(じゃくちゅう)、応挙(おうきょ)たちの世界 辻惟雄(のぶお)著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

十八世紀京都画壇 蕭白、若冲、応挙たちの世界

『十八世紀京都画壇 蕭白、若冲、応挙たちの世界』

著者
辻 惟雄 [著]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784065143209
発売日
2019/02/09
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

十八世紀京都画壇 蕭白(しょうはく)、若冲(じゃくちゅう)、応挙(おうきょ)たちの世界 辻惟雄(のぶお)著

[レビュアー] 狩野博幸(日本近世絵画研究者)

◆いたずらっ子ぽい目配せが

 評者が美術史の研究を始めたよちよち歩きの頃、西洋美術史を除けば、学界の中心勢力は中国美術あるいは仏教美術、『源氏物語』などの絵巻、もしくは雪舟(せっしゅう)を代表とする水墨画といったものであった。

 国文学においても『源氏物語』を研究するのが一流という雰囲気だったのだが、近世文学の分野での泰斗(たいと)である中村幸彦(ゆきひこ)氏が、江戸時代の俗文学における「表現の時代性」の深層を入念に辿(たど)った『戯作(げさく)論』一冊を世に送り出したことで、国文学界の様相が文字どおり一変したのである。ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』一冊で“近代文学”が“現代文学”へ変容したのと同じことだ。

 その『戯作論』と見事に対応するのが、美術史研究にもたらされた一冊、辻惟雄氏の『奇想の系譜』だった。“奇想”をキーワードに岩佐又兵衛(いわさまたべえ)・伊藤若冲・曾我(そが)蕭白・歌川国芳(くによし)らの絵画を縦横無尽に語り続ける“辻節”は、何とはなく陽(ひ)かげでくすんでいた後進の江戸絵画研究者たちのきびすを上げさせることとなった。不肖、評者もまたそのひとりである。学会での発表の題目、卒業論文においても江戸時代絵画を選ぶ者の数が突出するようにもなった。学問の世界でこんなことが起こるのである。

 本書はその書名のごとく江戸時代中期、十八世紀の京都の画家について書かれた辻氏のこれまでの論考を集めて一冊と成したもので、若冲や芦雪(ろせつ)、そして蕭白ら“奇想の画家”も収録されているが、その他の画家についても辻氏の目が張り巡らされていることに改めて気づかされた。カバーの表紙絵として、生前の怖(おそろ)しいほどの人気に較(くら)べて今や見る影もない岸駒(がんく)の、彼が得意とした虎の絵ではなく、あえて当世美人画が採用されているところに、辻氏を知っている人にはおなじみのいたずらっ子ぽい目配せを見ることが出来るだろう。

 先述の中村氏は事あるごとに「愉(たの)しんでこそ学問です」と言っておられた。辻氏もまた学問を愉しんでおられる。一読をおすすめする次第だ。

(講談社選書メチエ・1836円)

1932年、愛知県生まれ。美術史家。東京大、多摩美術大名誉教授。著書多数。

◆もう1冊

狩野博幸著『江戸絵画の不都合な真実』(筑摩選書)。岸駒も1章を立てて詳述。

中日新聞 東京新聞
2019年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加