昭和、平成を駆けた、女たちの生き方『トリニティ』窪美澄

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トリニティ

『トリニティ』

著者
窪美澄 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103259251
発売日
2019/03/29
価格
1,870円(税込)

昭和、平成を駆けた、女たちの生き方

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 一九六〇年代から八〇年代、雑誌カルチャー華やかなりし時代に、その人気を牽引した雑誌を次々と創刊した潮汐(ちようせき)出版。のちにログストアと社名変更した出版社で働いていた三人の女性たちの、三通りの人生を軸に、昭和史を絡ませつつ物語は進む。

 無名の新人ながら六四年に創刊された伝説の雑誌『潮汐ライズ』の表紙イラストレーターに抜擢され、早川朔という名を確立していく藤田妙子。佐竹登紀子は、三代続くもの書き家系の裕福なお嬢様。浮き草稼業と自嘲するが、人気雑誌の文体を発明した名物ライターへと成長する。宮野鈴子は戦後のサラリーマン家庭に育ち、出版社の事務から専業主婦の道を選ぶ。

 中年期にさしかかる中で、彼女たちは幾度も人生の岐路に立たされる。仕事や社会に抑圧されていた昔の方が、生き生きと生きていたように見えるのは、皮肉な話だ。女性の時代と言われ、もてはやされている現代はむしろ女性たちは道を狭められ、生きにくくなっている。それを象徴しているのが、登紀子の晩年であり、鈴子の孫の奈帆だ。かつては研究者である夫の生活も支えていたほど稼ぎ手だった登紀子も困窮し、奈帆は、祖母の鈴子のような仕事に憧れ小さな出版社に潜り込むが、そのブラックな体質に押しつぶされ体調を崩している。その奈帆が鈴子に紹介してもらい、登紀子に半生を語ってもらうことに。やがて、世捨て人だった登紀子にも自分に自信が持てなかった奈帆にも変化が起きていく。

 本書で描かれるのはこの五十年を女性たちはどう生きてきたのかという振り返りだ。だが、女だって仕事がしたいという思いはこれからも生き続ける。その情熱を感じさせるラストが熱い。

光文社 小説宝石
2019年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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