『絵とはなにか』
- 著者
- ジュリアン・ベル [著]/長谷川 宏 [訳]
- 出版社
- 中央公論新社
- ジャンル
- 芸術・生活/芸術総記
- ISBN
- 9784120051678
- 発売日
- 2019/02/21
- 価格
- 4,620円(税込)
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ていねいに解き明かされる根源的で魅力的な絵画の歴史
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
フェルメールは大好きだが現代絵画は好きになれないという人は少なくない。もしかしたらそういう人は、絵を謎解きの問題として見ているのかもしれない。作者がなんらかのメッセージを絵にかくし、見る人はそれを探し当てるという考え方に立てば、描かれた人や物、風景などの「表情」が読み取れないような絵はひとりよがりで不親切だ。
でもそれは誤解である。絵は、作者の主張や感情を解読させることが目的なのではない。そのことを少しずつ、しかし確実に解き明かすのがこの本だ。実作者が実感をこめて絵画の歴史を振り返る。絵が風景や人物の再現だった時代(絵は手段にすぎない)から、絵それ自体が価値ある表現と見なされるようになった経緯や、一点透視法で画面を構成することの限界、ウォーホルらのポップアートがそれまでの美術の文脈にどう対抗したか、そもそもリアリズムとはなにかということなどを、じつにていねいに考える。ほとんど哲学書といってよい。
訳者によれば、1999年に出版された本書は、2017年に大幅に書きかえられた新版が刊行された(これは新版の翻訳)。最近の絵画の動向について加筆したというより、「絵とはなにか」という問いそのものに何度でも別の角度からアプローチし、取り組みを新たにする意欲のあらわれだろう。著者は複雑で巨大な問題に魅了されているのだ。
本書では、「絵」と「お笑い」の差異を考えたりもする。人は重苦しいだけの日常には耐えられないから、ふと笑ったり目を遊ばせたりする「お笑い」の魅力を必要とする。絵画もそういう魅力をもったもののひとつだ。絵は今後、どんなやりかたで人目を引くようになるだろう。人類は今後も、家の壁に絵を架けたいと思うだろうか。こうした世俗的な疑問も置き去りにせず、まともに扱うところが本書の魅力であり、もしかしたら著者の人柄の魅力なのかも。