[本の森 仕事・人生]『東京の子』藤井太洋/『あたしたちよくやってる』山内マリコ/『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』辻村深月

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[本の森 仕事・人生]『東京の子』藤井太洋/『あたしたちよくやってる』山内マリコ/『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』辻村深月

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 今年四月から、外国人の在留資格が大きく緩和される。政府は二〇二五年までに、外国人労働者を現状の一三〇万人弱から、五〇万人増を目指すという。こうした現実を背景に、よくよく考えてみればデビュー作以来、近未来の労働問題――気持ちよく働くことと生きることの関係性――を書き継いできた藤井太洋が、『東京の子』(KADOKAWA)を発表した。

 舞台は二〇二三年の東京。かつてパルクールのパフォーマーとしてYouTube界を席巻した舟津怜は、戸籍を買い別の名前で何でも屋稼業を営んでいた。新たに舞い込んだ依頼は、オリパラの有明会場跡地に新設された東京人材開発大学校、通称「東京デュアル」から失踪したベトナム人の捜索。四万人の外国人がキャンパスに隣接されたタワーマンションに住み、校内にあるサポーター企業のオフィスや工場で働きながら学ぶ画期的なシステムは、実は人身売買の取り決めによって成り立っていた――。身体能力抜群の“動ける探偵”ものとして開幕した物語は、潜入スパイもの、国家陰謀もの、師弟ものと、サブジャンルを次々に飲み込みながらスケールアップ。その過程で、外国人労働者の問題は、「社員3・0」というフレーズと共に日本人労働者の問題へと直結していく。この国で起こりつつある現実を注視する方針が採用されている以上、行き着く先はネガティブな結論しかあり得ないだろう……と思いきや、物語は終盤三分の一で、読者ばかりか登場人物達も「え!?」と驚くような、奇妙な運動を呈し始める。この題材、このリアリティから、ポジティブな未来像を導き出せるところが、この作家の最大の個性だ。

 山内マリコ『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)は、女性の人生に訪れる問題群を綴った短編小説一七本とエッセイ一六本が、混ぜこぜに収録されている。登場人物の感情が盛り込まれた小説を読み、凝り固まった思考がほぐされ問題意識の芽を埋め込まれたところで、明晰なロジックで貫かれたエッセイがビシッと現れる。そこから今度は小説へと移動し、先ほど手にしたはずの答えが、揺らぐ。重層的な読み心地だ。作者がフォーカスを当てている問題のひとつは、仕事のこと。好きな仕事をし、自分でお金を稼ぐことは大変だ。だからこそ大事なことは、一生懸命探すこと。〈人生の前半は、できるだけ好きと思える仕事を探す旅です。わたしはその旅に、三十一年もかかりました〉(一八番目に収録されている七篇目のエッセイより)。ラスト二篇の短編小説で描かれた未来像は、「自分らしさ」を呪いだと感じてしまっている人々を、問答無用で勇気付けるはず。

 辻村深月『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』(小学館)から一文を引こう。「想像力は未来だ!」。今もっとも必要なのは、冷静かつ客観的な現状分析プラスαの、ポジティブな想像力なのだ。

新潮社 小説新潮
2019年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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