本書を数時間読めば、以降のニュースを観る目も変わる

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世界史の大逆転 国際情勢のルールが変わった

『世界史の大逆転 国際情勢のルールが変わった』

著者
佐藤 優 [著]/宮家邦彦 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784040822426
発売日
2019/02/09
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

外務省出身二人の碩学が六つのテーマで高論卓説

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 宮家氏と佐藤氏は同じ時期に外務省に在籍しながら、専門領域の違いから当時全く接触がなかったのだそうだ。しかし、ここ数年は数カ月おきに二人だけで放談会をやる仲なのだという。きっと二つのレーザービームは同じ目標物を違う角度から照射して、高度な水準で現在の国際情勢を見事に照らし出すはずだ。それが本書の意図である。

 テーマは以下の六つの章立てで展開される。(1)米国が北朝鮮の核を受け入れた後の東アジア情勢について、(2)何故トランプ政権は支持されているのか、「感情」で動く国際情勢について、(3)日本の非核三原則のミームと、世界は核抑止から核拡散の時代へと推移していく現実について、(4)混迷する中東情勢と「脱石油」の衝撃、見直しを迫られる日本のエネルギー政策について、(5)AIとシンギュラリティ、特にAIが軍事戦略を一変させることについて、(6)ファシズム化する世界の行方を追いながら、民主主義の限界について議論している。

 どれも興味深いテーマだが、特に(4)の「脱石油」の衝撃に関して、現在欧州各国は得意なはずのディーゼル技術を放棄してまで自動車のEV化を加速している。評者には随分と極端な政策だと映ったが、根本に欧州の中東やロシアに対するエネルギー依存度の低減という大きな戦略があるならばこれは腑に落ちる。

 また中国も欧州と同様に自動車のEV化に積極的だが、従来理解されてきたように自動車製造の部品点数を家電並に下げて中国自動車産業の競争力を高めるという戦略だけにあらず、安全保障上のエネルギー政策という観点から俯瞰すればこれもまた納得なのである。

 では持たざる我が国のエネルギー政策はどうあるべきなのか。

 時事問題を理解するに、時には専門家のアドバイスが必要だ。本書を数時間読めば、以降のニュースを観る目も変わるだろう。

新潮社 週刊新潮
2019年4月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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