人生の後半戦にさしかかった女性の胸の内を三者三様に描く

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  • 彼女に関する十二章
  • 幸福な日々があります
  • 天才作家の妻 40年目の真実

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「伊藤整」のベストセラーを引合いに“女性の後半生”描く

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 中島京子の小説『彼女に関する十二章』のタイトルは、伊藤整の約六十年前の大ベストセラーエッセイ、『女性に関する十二章』をもじったものだ。

 主人公は結婚二十五年を迎える主婦の聖子。ひょんなことから読み始めた『女性に関する十二章』の内容が、彼女の日常と絶妙に呼応していく。

 伊藤の文章は今の時代に読むと、「女は男のために装うものだ」といった主張などがあり、やや古臭い印象。と同時に、結婚や仕事に関する女性の生き方、考え方はあまり変わっていないのか、とも思わせる。また、彼のいう自己犠牲を尊ぶ「日本的情緒」への違和感も、聖子を通して語られていく。

 子育ても終わりNPO法人の経理を手伝いはじめた聖子。「金を使わない生活」を送る元ホームレスの男や、ゲイの義弟など魅力的な脇役も登場、そこにもほんのりと今日的な問題が投影されている。人生の後半にさしかかった女性の日常をユーモラスに綴りながらも、しっかりと読み手の心の中に爪痕を残す作品だ。

 人生の後半にさしかかった時、妻は何を思うのか。朝倉かすみ『幸福な日々があります』(集英社文庫)の主人公は四十六歳の森子。結婚十年目となる年の元旦、彼女は突然、離婚を切り出す。理由は、親友としては好きだが、夫としてはもう好きじゃないから。そこからの日々と二人が出会った頃の日々が交互に描かれていく。別れたい森子と別れたくない夫、どちらの気持ちも曖昧といえば曖昧だ。「別れればいいのに」か「一緒にいればいいのに」か、どちらの感想を抱くかで、読み手の結婚観が見えてきそう。

 メグ・ウォリッツァー『天才作家の妻 40年目の真実』(浅倉卓弥訳、ハーパーBOOKS)は同名映画の原作。世界的な文学賞を受賞した夫とその妻が、式典へと向かう。仲睦まじく見える初老の夫婦だが、妻は夫にわだかまりを抱いている。実は二人にはある秘密があって……。妻の視点で描かれるため本音も言語化され、映画とはまた違った味わいだ。

新潮社 週刊新潮
2019年4月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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