21世紀の戦争と平和…三浦瑠麗著 新潮社

レビュー

7
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

21世紀の戦争と平和

『21世紀の戦争と平和』

著者
三浦 瑠麗 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784103522515
発売日
2019/01/25
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

21世紀の戦争と平和…三浦瑠麗著 新潮社 1700円

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 徴兵制の導入は、軍国主義を復活させ、戦争をうながすように思える。ところが著者が指摘するように、事実はそうでもない。たとえば徴兵制のある韓国は、挑発を繰り返す北朝鮮への武力行使に、抑制的である。太平洋戦争時の日本でも、一般国民が本当に平等に徴兵されるようになったのは最後の二年間ほどだ。つまり徴兵制が戦争をうながすというわけではない。

 市民が平和的で軍が好戦的だというイメージは、必ずしも正しくない。「血のコスト」を我が事として受け取らない市民は、安易な開戦を支持しがちなのだ。これについてイラク、アフガニスタン戦争を担当したゲーツ国防長官は「アメリカで一番大きなハトは軍服を着ている」と言う。そこで著者は、広い年齢層の、性別を問わない平等な徴兵制を提案する。もちろん徴兵は、人々の日常を一時的に奪うものだ。しかも兵器の高度化が進んだ現代では、もはや徴集兵は軍事的には役に立たない。多額の費用もかかってしまう。

 つまりこの徴兵は徹頭徹尾、国民の、血のコストへの理解を高め、戦争への無責任な賛同を抑えるためのものなのだ。こうした議論は、カント晩年の著作『永遠平和のために』を思想の土台としている。血を流す決定をする者と、実際に血を流す者との同一性を高めること。人数としては少数派である兵士の命を、多数派である市民がもてあそばないこと。他者を道具として用いてはならないというカント的な倫理観が、本書の通奏低音として横たわる。

 著者はまた、韓国やイスラエル、北欧諸国などの徴兵制を概観する。徴集兵の母集団の偏りや、安全性の問題、移民の扱いの難しさ等があり、完璧なものはない。だから著者は徴兵制を肯定的に論じつつも、理想視はしない。「血のコスト」を語る本書の議論は、冷静であるがゆえに、ときに生々しい。平和を求めるという問いの重さが、それへの直視を求めるからである。

読売新聞
2019年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加